経済産業省と産業革新投資機構(JIC)のバトルは、JICの民間出身の取締役全員が辞意を表明することで幕を閉じた。一体なぜ巨大官民ファンドは機能不全に陥ったのか。その全内幕に迫った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅・藤田章夫、「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 村井令二)
「もう終わりにしましょう」。12月8日土曜日、都内某所。官民ファンド、産業革新投資機構(JIC)の民間出身の取締役9人が集まった席上で、取締役会議長であるコマツ相談役の坂根正弘氏がそう切り出すと、9人全員の辞意が固まった。
所管官庁の経済産業省と前代未聞の対立を繰り広げた末、設立からわずか2カ月余りで、JICの事実上の活動休止が決まった瞬間だった。
坂根氏はこの前日まで、経産省の嶋田隆事務次官らと協議再開に向けて、10回以上にわたり接触を続けてきた。
JICの田中正明社長は「私がわびを入れてもいい」との意向を示したものの、経産省側は断固拒否。「これ以上の話し合いは無理だ」の一点張りだったという。
事ここに至るまでの間、経産省はJICへの批判を繰り返し、2019年度の概算要求予算の取り下げや、約2兆円の政府保証枠の凍結などをちらつかせては、執拗に田中社長の辞任を迫ってきた。
そして週明けの10日、東京・大手町のJIC本社で記者会見を開いた田中社長は、9人全員の辞意を表明するに至る──。
一体なぜ、経産省とJICは修復不可能なまでに対立を深めることになったのか。真相を探る中で“起点”として見えてくるのが、9月21日の出来事だ。