図表4は一般従業員の方々の病気などにつながる健康リスクを示していますが、今注目した残業60時間以上の層は「食欲がない」「ストレスを感じる」「実際に重篤な病気や疾患を持っている」といった項目で、軒並みかなり高い数字となっています。残業なしの層と比べると、ほぼ2倍前後にまで跳ね上がっています。

 こちらは先ほどの幸福感や会社満足度のように、いったん下がってから上がるようなグラフの動きは見られません。単純に、働けば働くほどストレスが強くなり、心身に負荷がかかっているのです。

 さらに興味深いのは、図表5でしょう。60時間以上の超・長時間労働の「残業麻痺」層では、「強いストレスを感じつつも、主観的幸福度は高い」と答える割合が増えています。

 つまり、「残業麻痺」層の中にも、仕事上の高い負荷を自覚していない人だけではなく、負荷を自覚しているにもかかわらず、幸せを感じている人がいるようなのです。

『残業学~明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』『残業学~明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』
中原淳、パーソル総合研究所著
光文社

 いずれにしても、超・長時間労働の層には、「長時間労働と個人の認知の不整合を起こす人の割合が増える」という不可解な実態――「残業麻痺」が確かに起こっていると言えます。

 実は、海外の研究でも同様のことが指摘されています。2003年のブレッド&ストローというイギリスの研究者による、「週に60時間以上働いていた男性管理者は、自尊感情と達成感が同時に高まる」という知見があります。(*3)

 また、同じくイギリスのスパークスの1997年の研究によると「長時間労働で働く人々は肉体的、心理的健康を明らかに毀損されてしまう」という知見もあり(*4) 、今回は、これら2つの研究を一度に検証したような結果が出ているのかもしれません。

(*3) Brett, J. M. And Stroh. L. K.(2003) Working 61 plus hours a week : Why do managers do it? Journal of Applied Psychology. 88(1) pp67-78
(*4) Sparks, K., Cooper, C. Fried, Y. And Shirom. A.(1997) The effect of hours of work on helth: A meta-analytic review. Journal of Occupational and Organizational Psychology. 70. pp391-408

(立教大学経営学部教授 中原淳、パーソル総合研究所)

※本文は書籍『残業学~明日からどう働くか、働いてもらうのか?』を一部改編して掲載しています。