自分たちは質問や意見を何も言わなかったくせに、会議が終わって部屋を出ると、

「まさか、あんな提案が通るとは思いませんでしたね」
「とんでもないことになりましたね」

 などと口々に嘆いている。誰もがそんな場面を経験しているのではないか。自分たちで決めたはずなのに、まるで他人事だ。そのこと自体、みんなが異論を封じる雰囲気に支配されていたことを表している。

 そのような場面で猛威を振るっているのが同調圧力だ。この圧力を何とか排除しないと、組織としての意思決定を誤ってしまい、組織存続の危機を招きかねない。実際、存続の危機を迎えた組織は枚挙に暇がない。

同調圧力による意思決定の誤りを防ぐには
疑問を発する役を設定しておくこと

 このような同調圧力による意思決定の誤りを防ぐには、どうしたらいいのだろうか。

 同調圧力が問題だとわかっていても、それに抗うのは非常に難しい。先ほどのA課長のことを「情けない」と非難できる人はほとんどいないのではないか。では、A課長と同じような状況に陥った時、どうすればいいのか。

 部下が上司を止めるのはほとんど不可能な話だ。従って、物事を強引に通していく上司の暴走を止めるには、組織全体の意思決定のやり方を改善するしかない。

 心理学者アッシュは、同調圧力についての実験をたくさん行っているが、そこで実証されたのは、「同調圧力に屈しない人が1人でもいれば、本当の意見を出しやすくなる」ということだ。

 例えば、7人のサクラを用いた実験では、1人で行った時には誤答率が1%にも満たないような易しい問題でも、サクラが相次いで誤ってしまうと、サクラの同調圧力に屈して誤答率が32%に跳ね上がることが証明されている。

 ところが、7人のサクラのうち6人が誤答をしても、残りの1人が正しい答えを選ぶと、同調圧力に屈して誤った解答をする割合は、32%から5.5%へと大きく低下することが示されたのだ。

 どんな提案にも、長所もあれば弱点もある。そうした両面をしっかり検討しておかないと、判断を誤る。

 そこで、愚策が通らないようにするには、提案についてきちんと議論し、本気で検討する必要がある。そのために有効なものとして、その提案に対して疑問を投げかけたり、反対意見を述べたりする役割を、事前に誰か腹心の部下にあてがうという方法がある。

 これは、心理学者ワイズバンドが提唱したデビル審理法である。つまり集団圧力を防ぐために、わざと反対意見を述べる悪役(=デビル役)を用意するのである。この方法を用いれば、提案に対して疑問をぶつけたり反対意見を述べたりしにくい空気は壊され、誰もが率直に意見を言いやすくなり、多面的に検討できるようになる。