全米を代表とするがんセンターで結成されたガイドライン策定組織 NCCN(National Comprehensive Cancer Network)が作成し、年に1回以上改訂を行い、世界的に広く利用されているがん診療ガイドラインでは、前立腺がんの中で「超低リスク」に相当するものは年齢に関係なく監視療法が第一選択になると明言しています。超低リスクとは、直腸診をしても確認されずに偶然に発見されたがんであって、組織検査でグリーソンスコアが6以下で、血中PSA値が10ng/mlのものを指します。

 欧州ではこの監視療法が占める割合は米国よりずっと高いといわれています。一方、日本では、監視療法の認知度は低く、監視療法について詳しく説明しない医療機関もあるようです。「早期がんなので切ればすぐ治ります」と説明されて即座に手術を受け、性機能不全や排尿障害の後遺症に深く悩むことになることが少なくありません。

 しかし、患者さんの中には、命が助かった代償だから仕方がないと諦めている方もいるでしょう。これは、がん治療に対する1つの考え方とも言えますが、がんをあまりに恐れるあまり、取り返しのつかない不要な後遺症を残すことになりかねないのが前立腺がん治療であり、他のがんと異なるユニークなポイントといえます。

 前立腺がんに対する治療選択肢は複数あり、監視療法という独特な手法もあることも含め、担当医師からの十分な説明を受けることが大切です。その上で、しっかりとした同意(インフォームドコンセント)の下で自身が納得のできる治療法を選択すべきです。前立腺がんに限らず、がん治療においては、患者さん本人の生き方や価値観を、担当医も患者さん自身もしっかりと見定める必要があると思います。

フォーカルセラピーは
治療と身体機能の維持の両立を目指す

 超低リスクの前立腺がんと診断され、放置してもさしたる問題はないことが頭ではわかっていて、実際に監視し続ける場合でも、実は不安だという方は意外に多いかもしれません。

 フォーカルセラピーと呼ばれる、「手術などの根治的治療と監視療法の中間に位置する治療概念」があります。がんを治療しながらも、正常組織や生理機能を可能な限り温存して、治療と身体機能の維持の両立を目指すものです。

 例えば、高密度焦点超音波療法(HIFU)、凍結療法、小線源療法など体にダメージが少ない低侵襲治療としてフォーカルセラピーは実績が増えています。しかし、治療後の評価が難しく、十分な科学的根拠が得られていません。今後は、他に、免疫療法や遺伝子治療も監視療法を補完する治療として台頭してくるかもしれません。