10. アイデアではなく、ビジョンを共有しよう
気仙沼だけでなく、多くの被災地では行政や市民の代表が主体となり、復興にむけたアイデアを選定している。しかし、アイデアには失敗がつきものであり、また意思決定のプロセスをよほどうまく進めない限り、異議を唱える人も出てくる。
一方で、地元の価値や自分たちが描く地域の未来といった、ビジョンの議論では異論が出にくい。実際、私たちが気仙沼市で「地元のお宝」を再発見するワークショップを実施したところ、仕事も住む地域も異なる人々が、子供時代の遊び場や地元の食材などの話題をきっかけに、みるみる結束していった。
アイスランドでも、金融危機後は、市民にとっての価値を改めて定義すべく憲法についての議論が展開された。遠回りに見えても、行政が主体となり、地域の価値と未来に対するビジョンを共有する作業は決して無駄にはならない。
さて、この10ヵ条から見えてくる新しい地域のあり方とは何だろうか。
まず、アイスランド再生のカギが、ボトムアップ方式にあることは間違いないようだ。産業の活性化が急がれるときに、教育に力を入れるというのは遠回りにも思えるが、中長期的視点で見れば本質的な解決につながる。
そうして吸い上げたボトムアップによる解決策を、さらに志を同じくする国内外地域と連携することで広げていく。私たちはこうした考え方を“スケールアウト型の地域イノベーション”と呼んでいる。経済基盤をテコ入れして、人々の生活水準を向上させることのみを目標にするのではなく、その地域に暮らす人や、将来そこに住まうであろう人のやりがいと創造性、そしてこの地域で生きていきたいという気持ちを喚起する。それを可能にするのは、教育においても、産業においても、東京のような大都市を中心とした価値観ではない。むしろ、同じような志を持った世界や、日本における他地域の人々とのネットワークこそが柱となるのである。