「大きな国のモデルとはなり得ないが、国の中にある地域のモデルにはなり得る」。以前にも紹介した、アイスランドのグリムソン大統領の発言だ。

 この言葉の通り、アイスランドから日本が震災被災地をはじめとする地域の再生に向けて学べることを整理すれば、以下の10項目が挙げられる。

1. 起業家を支援しよう

 被災地では、多くの地域産業が壊滅的な打撃を受けた。過疎と高齢化が進む中、少しでも新しい事業を生み出そうとする人材の存在は貴重だ。

 連載でも触れたが、アイスランドでは、先進国にもかかわらず10人中1人が起業活動に従事し、小さいながらも産業に多様性を生んでいる。それには、起業後に破産しても、2年後には改めて起業できる制度が整備されるなど、失敗してもやり直せる土壌が育まれている。

 日本は起業における後進国だけに、リスクを取りながら新しい産業と雇用を生み出そうとする人材を支援するような、社会的基盤の整備が急務だ。

2. イノベーション教育をしよう

 起業家精神の育成と並んで、アイスランドが重視しているのはイノベーション教育だ。中でも重要視されているのは、一問一答の教科科目ではなく、生徒が自分たちで取り組む課題を発見し、解決に向けて試作する環境だ。最初から斬新なアイデアを出せ、というのではない。プロトタイピング(試作)にこそ、アイスランドの小学校は力を入れている。幼いころから試作と失敗を繰り返し、その中から新しいものを生み出すことを学ぶ意義は大きい。

3. 代表から直接民主主義へ

 アイスランドの型破りな復興政策は、市民による抗議運動から生まれたものである。アイスランド国民は2度にわたる国民投票を通じて、銀行預金者でなく、納税者を救済する意志を表明した。

 行政への信用が自明のものでなくなった今、投票などの形を通じて市民が直接的に行政に関与する機会を求める声は、日本でも益々増えていくだろう。すでに鳥取市では、市庁舎の新築移転を巡って、住民投票によって市議会と市長の決議が覆される、という事態が起きている。

4. 門外漢を受け入れる体制を作ろう

「私は農業について、何も知らなかった」――長年にわたって農業に携わってきた男性にこう言わしめたのは、アイスランドのデザインを専攻する学生たちだ。異なる専門領域を持ち、確立されたプロセスに新しい価値観を持ち込める人は、先細る地域産業にとって貴重な存在だ。

 外部の人材を登用して新たな商品開発を進める試みは、日本でも島根県隠岐郡海士町など多くで行われているが、被災地においても、こうした仕組みは重要になってくるだろう。

5. ローカル・アンバサダー(地域親善大使)を輩出しよう

 上記のプロジェクトは特定の農家と学生の協業だったが、こうした試みを地域ぐるみで行っていくには、その地域の価値を知り他のネットワークと仲介してくれるアンバサダー(大使)の存在が欠かせない。

 特に震災後は、日本で何かできることはないか、一緒に取り組んでいける地域はどこか、そうした視点で日本の地域を見ている海外の地域行政や基金団体は多い。地元の産業や特産物に詳しいだけでなく、その価値を日本の文化にとどまらず、他地域との比較などからも紐解ける市民が輩出されれば、その地域の可能性は大きく広がるだろう。