「カヤマ流・出張の極意」は絶対に売れない

 では、これはどうでしょう。私の場合、新幹線に乗ってまずするのは、座席を倒してジャケットと靴を脱ぎ、深い眠りに入ることです。上司も同僚もいない新幹線の中は、まさにパラダイス。途中で目が覚めたら、車内販売のポテトチップスを頬ばりながら駅で買ってきたスポーツ新聞に目を通してまたウトウト、これが私の出張スタイルなのです……。

 ですが、いくら私がこれを「カヤマ流・出張の極意」などと銘打って本に書いても、読んでくれる人はまずいないと思います。実際に似たような本を何冊か出しましたが、売れ行きは最悪でした。

 もちろん、本が売れなかった最大の理由は私自身が輝く成功者ではないからなのですが、もし、私が世界的な超有名起業家やナンバー1営業ウーマンだったとしたらどうでしょう。それでもやはり「成功したければ新幹線で本は読むな」とか「営業トップは移動中とにかく眠る」といった本は、売れない気がします。

 実際にそういった「○○するのをやめなさい」といった本を出した後は、必ずといってよいほど「あなたはそれでいいかもしれないが、他人にまで勧めるのは余計なお世話」「もし実践して失敗したら責任取ってくれるのか」といった批判的なコメントが寄せられます。

 つまり、読者は「○○しなさい」式の本を求めているわけです。

 「私はこれをやって成功した」という経験談なら簡単に信じたり、「よし、いただき!」とまわりに先駆けて実行したりする人たちも、「何もしてはいけません」「今やっていることをやめなさい」という本となると敬遠したり警戒したりするのです。

 「筆者と自分だけが共有できる成功のヒントがほしい」と成功経験談に手を伸ばす人たちが求めているのは、「やめなさい」「してはいけません」ではなくて「とにかくしなさい」というメッセージである。こういう法則もあるようです。

 もしかするとこれは、心理学でいわれる「不安解消行動」と関係しているのかもしれません。