M&Aを果たすと「人生ゴール」?
同調圧力を感じた、おかしな日本
――2018年には、水処理装置の栗田工業から3700万ドル(約40億円)の出資を受け、同社の傘下に入りました。日本人経営者による海外のスタートアップで、M&A(企業の合併・買収)を成功させた会社はまだまだ少ないです。売却したとき、率直にどのようなお気持ちでしたか。
以前、(東大発ヒト型ロボットスタートアップ)シャフトをグーグルに売却した経験があるので、さほど驚きはありませんでした。
ただ、その際、本当に多くの友人・知人からお祝いのメッセージをいただきました。あまりにも、「おめでとう、おめでとう」と言われたので、3日間ぐらいボーッとしてしまいました。中には「これで終わったね、人生一段落だね」という方もいたほどです。
――達成感を感じていたのでしょうか。
いえ、実際は違和感といいますか、大きなギャップを感じていたのです。そもそも、資金調達の際、その手段としてM&Aや上場(新規株式公開)という選択肢(エグジット)があるに過ぎません。ですが、日本でスタートアップがエグジットすると、それが人生のゴールであるかのようにもてはやされます。
東証マザーズに上場すると、経営者が東京証券取引所で鐘を鳴らしますよね。あの「カーン」という鐘の音が「仕事人生、これで終わり」という印象を与えていてよくないと思います。皆が「これで終わり」というから、同質化の圧力といいますか、僕ですら「終わりなのかな」と感じてしまいました。
ところが全然、終わっていない。おめでたくもない。むしろ、これからだと思い直しました。そこからギアを上げて、現在は攻めに攻めています。
もし、日本にいたら高級ワインを空けて気持ちよくなって終わっていたかもしれません。よかったのはシリコンバレーにいたことです。M&Aをした後も、日常生活がまったく変わりませんでした。