【ニューパワー・スキル3】
「オールドパワー」と組み合わせる
著者たちは、かならずしも、つねに新たなやり方こそが一番いいと言っているわけではない。ニューパワーは、オールドパワーと適切に組み合わせたとき、とてつもない効果を発揮するという。
本書で取り上げられている例では、TEDがこれを効果的に行っている。TEDというと先進的なアイデアをネットを使って巧みに拡散しているイメージがあるが(本書によると、コミュニティづくりや、スーパー参加者に運営をまかせるなどのアイデアも豊富だ)、一方では、TEDカンファレンスの参加費は2万ドルという高額で、講演者も参加者も厳選され、ほんの一部の選び抜かれた富裕層たちだけが、会場でシリコンバレーの大物たちと肩を触れ合える。ニューパワーの特徴である「大衆の参加」とはかけ離れたシステムだ。しかし、それによってブランドをしっかりと維持しながらも、利用者を広げることができている。
他にも、草の根的なコミュニティづくり(ニューパワー)と、政治家の選挙への圧力(オールドパワー)を併用する「全米ライフル協会」や、コミュニティの参加者からデザインやコンセプトを募りつつも(ニューパワー)、従来企業と同様の技術者や開発サイクルで製品を生み出している(オールドパワー)「ローカルモーターズ社」という新興の自動車メーカーなどが例として挙げられている。
この手の本は新たなパワーのいい側面にばかり光を当てることになりがちだが、本書ではどのように行動すれば最も大きなパワーを発揮できるのかが極めて現実的に説かれているのだ。著者たちは次のように言っている。
「多くの人は、オールドパワーの言葉なら話すことができる――そういう世界で育ってきたからだ。いっぽうこれからの世代は、ニューパワーの言葉が母語になるかもしれない。しかし、世界を本当に変えられるのは、両方の言葉を流暢に操れる人たちだ」(『NEW POWER』より)
本書では、以上挙げた3つの方法に留まらず、お金を集める新たな方法から、リーダーシップの発揮し方、チームの作り方といったことまで、これからニューパワーを発揮して活躍していくためのさまざま方法が豊富な実例と共に紹介されている。テクノロジーの変化とともに価値観が急激に変わっている「新しい時代」に対応していくための教科書というべき内容だ。ぜひ読んでみてほしい。
ニューヨークに本拠を置き、世界中で21世紀型ムーブメントを展開する「パーパス」の共同創設者兼CEO。「ゲットアップ」共同創設者。194ヵ国、4800万人以上のメンバーを持つ世界最大規模のオンラインコミュニティ「アヴァース」共同創設者。ハーバード大学、シドニー大学で学び、マッキンゼー・アンド・カンパニーで戦略コンサルタント、オックスフォード大学で研究員を経て現職。世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ」、世界電子政府フォーラム「インターネットと政界を変える10人」、ガーディアン紙「サステナビリティに関する全米最有力発言者10人」、ファスト・カンパニー誌「ビジネス分野でもっともクリエイティブな人材」、フォード財団「75周年ビジョナリー・アワード」などに選出。ヘンリー・ティムズと共にハーバード・ビジネス・レビュー誌に寄稿したニューパワーに関する論文は、同テーマのTEDトークが年間トップトークの1つになり、CNNの「世界を変えるトップ10アイデア」に選ばれるなど大きな話題となった。
ヘンリー・ティムズ(HENRY TIMMS)
マンハッタンで144年の歴史を持ちながら、ファスト・カンパニー誌「もっともイノベーティブな企業」リストに入る「92ストリートY」の社長兼CEO。約100ヵ国を巻き込み、1億ドル以上の資金収集に成功した「ギビング・チューズデー」の共同創始者。スタンフォード大学フィランソロピー・シビルソサエティ・センター客員研究員。世界経済フォーラム・グローバルアジェンダ会議メンバー。
神崎朗子(かんざき・あきこ)
翻訳家。上智大学文学部英文学科卒業。おもな訳書に『やり抜く力』(ダイヤモンド社)、『スタンフォードの自分を変える教室』『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』『フランス人は10着しか服を持たない』(以上、大和書房)、『食事のせいで、死なないために(病気別編・食材別編)』(NHK出版)、『Beyond the Label(ビヨンド・ザ・ラベル)』(ハーパーコリンズ・ジャパン)などがある。