倒れた原因は免疫治療薬「オプジーボ」の副作用。投与したのは、免疫療法をメニューに掲げる自由診療のクリニックだ。
多くの患者たちにオプジーボを投与している自分ですら、副作用に手を焼き、神経をとがらせている。安易に扱える薬ではない。
オプジーボがあまりに有名になったが故、適応外でも「使ってくれ」と懇願する患者が後を絶たない。「あなたのがんには使えない」と説明すると、「じゃあいい。別のところでやる」と去っていく──。
筋の悪いクリニックは、「副作用が出たら、前の病院なり、よそに行ってください」と突き放す。「やつらに治そうなんて気持ち、さらさらないんだ」。これまでに何人もの患者が運び込まれてきた。医師は憤りを募らせる。
「免疫療法に効くものはない」という医療界の定説をオプジーボは覆した。この薬に罪はないが、一般には免疫療法に対する過剰な期待が高まってしまった。
国から販売承認を得ていない免疫療法の全てが悪いわけではない。大事なのは見極めだ。
治療薬やそれに関連する世界では、ポテンシャルが高く、製造販売承認を取得して健康保険適用を目指しているものの多くは、国内において自由診療ではなく、患者に費用負担のない臨床試験を行っていくものだ。承認を得るには厳格な試験の実施と結果が求められるからだ。例えば免疫療法の世界にはどんなものがあるのか。そうした治療法で注目を集めているものを二つ紹介しよう。
一つは「オプジーボ級のパラダイムシフトを起こす可能性を秘めている」と、専門医たちが期待を寄せる「CAR-T(カーティー)細胞(キメラ抗原受容体T細胞)療法」だ。CAR-T細胞療法は患者から採取した免疫細胞(T細胞)に、がんを発見しやすくする遺伝子操作を加えて培養し、再び患者に戻す(下図参照)。