「君たち、毎日遊びに来てくれてありがとう。君たちの声を聞くと私も元気になるよ。これから、この空き地に来て遊ぶ前に私を訪ねておくれ。そうすれば、みんなにお礼として毎日10円ずつあげるから」

 話を聞いた子どもたちは喜び、これまで以上に遊びに来るようになった。

 そんな日がしばらく続いた後、老人はまたみんなを集め、今度はこう言った。

「君たちには悪いけど、ちょっとお金が減ってきたので、毎日10円はあげられなくなってしまった。だから明日からは1円にするけど、今まで通り遊びに来ておくれ」

 すると翌日から子どもたちはピタッと来なくなり、他の空き地へ遊びに行ってしまったのだ。

市場規範に変えることで
行動をコントロールすることもできる

 この場合、「老人の家の前の空き地で遊ぶのが面白い」というのが、子どもたちのコンセンサスであったため、そのコンセンサスを「社会規範」として行動していた。ところが、老人が毎日10円ずつ払うことで、「報酬」という「市場規範」によって行動するようになってしまったわけだ。

 そうした中で、金額が大幅に下がってしまうと、どういうことが起きるのか。ごく自然に経済原理に従い、市場価値の低くなったものを捨て、より高い市場価値を求めるようになるだろう。あるいはそれが得られない場合は、また新しい遊び場を見つけるという行動、すなわち新たな「社会規範」によって行動するという現象が起きてくる。

 この場合、保育園のケースと同様、「社会規範」を「市場規範」に変えたことによって、全く逆の意味で子どもたちの行動をコントロールすることに成功したわけだ。

 2つの例から考えられること、それは「市場規範」よりも「社会規範」の方がより強く人を動かす力を持っているということだ。

 保育園の例でいえば、「社会規範」で縛っていればよかったものを「市場規範」に変えてしまったことで失敗してしまった。それが老人の家の場合は、思いがけない提案をすることで「市場規範」に変えることに成功し、さらにその価格を下げることで行動がコントロールできたということになる。