監護者性交等罪が創設された意味と、
暴行・脅迫要件

 一方で、改正が検討されながらも見送られた点もある。「公訴時効の廃止または停止」「配偶者間におけるレイプの明文化」「暴行・脅迫要件の緩和もしくは撤廃」「性交同意年齢の引き上げ」などだ。

 特に「暴行・脅迫要件」については議論が多い。新井容疑者の「暴行はしていない」という一部否認も、暴行・脅迫要件と関連すると考えられる。暴行や脅迫がなければ、強制性交等罪は成立しないからだ。

 強制性交等罪は「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交、又は口腔性交」を行うこと。つまり、殴る蹴るなどの暴行や、「殺すぞ」といった脅しを伴うものが強制性交(レイプ)とされる。この要件は改正前の強姦罪から変わっていない。※13歳未満の場合は暴行・脅迫要件がない。

 通常の性交と「強制性交」を分けるものは日本の場合、暴行・脅迫の有無なのだ。しかし、暴行・脅迫を用いずとも相手の抵抗を奪うことはできる。恐怖にかられ、被害者がフリーズすることもある。

 例えば、相手が親などの監護者の場合。子どもの生活を把握・管理する立場の大人は、暴行や脅迫を用いなくても、「性交に応じなかったらお前の居場所はなくなる」と思わせたり、あるいは「これは誰でもやっていることだ」と言いくるめることは容易いと想定できる。このために改正にあたって創設されたのが「監護者性交等罪」だ。加害者が被害者の監護者(実親や養親など)に当たる場合において、暴行・脅迫要件が撤廃された。

 あるワンストップ支援センターのスタッフは、改正後に家庭内性虐待が立件されやすくなったという印象を語っている。

※ワンストップ支援センター=性暴力被害者に、診察やカウンセリングなどの心身のケア、法的支援などを、できる限り包括的に行う場所。全国の都道府県に最低1ヵ所ずつ開設されている。

 監護者性交等罪が創設された意味は大きい。だが一方で、暴行・脅迫を用いずとも被害者の抵抗を奪える関係や状況は、これ以外にもあるのが現実だ。

 例えば、上司と部下、雇用主と労働者、先輩と後輩、教師と生徒、コーチと選手などの上下関係を利用したレイプ事件は少なくない。監護者性交等罪の創設は改正にあたって議論された「地位関係性を利用した性的行為に関する規定」の一部が認められたかたちだが、一部“しか”認められなかったとも言える。