この保育士獲得競争で割を食っているのが認証保育所など小規模な認可外保育園だ。東京大学内の認証保育所の運営に携わる同大学院総合文化研究科教授の瀬地山角氏は、「保育士不足のため園児が定員まで集まらない状況が続いている。ここ2年で赤字に転換し、継続が苦しい状況だ」と憂慮する。子どもを預けたい人がいて預け先に空きがあっても、保育士がいなければ保育園の運営は成り立たなくなっていくのだ。

 ただ、保育の資格を持ちながら保育に従事していない「潜在保育士」が70万人以上いるといわれている。保育士不足の事態を受け、国は再就職支援を始めているが、現役保育士はそれを鼻で笑う。

 「私の短大の同級生は10人いたが、今も保育士を続けているのは2人だけ。一般企業の方が、給料が高くて休みが取れるのに、保育士に戻るわけがない」

年収1000万円も!?
保育士の獲得競争が激化

 先述の通り、補助金の額は子どもの数で決まる。だが、それをどう給与に配分するかは経営者次第。認可保育所の多くが社会福祉法人によって運営されているが、理事と主任は長年固定されていて給与が高く、現場の保育士の給料は安いまま。キャリアパスもない上、早朝や夜、土日の出勤もあるシフト制の勤務形態が多く、まさにブラック企業の典型だ。結婚、出産を機に辞めてしまう人も多かった。

 だが、その流れがここ数年で変わってきた。

 政府は処遇改善のため、17年に保育士のキャリアアップの仕組みとして「職務分野別リーダー」「副主任保育士」「専門リーダー」という役職を設け、それぞれに給料を加算した。こうした取り組みの結果、17年の保育士の平均年収は約342万円となり、5年で30万円超上がっている。

 さらに処遇改善に貢献しているのが、保育士の獲得競争だ。特に株式会社系の園は積極的で、保育、学童サービス大手のグローバルグループではリファラル(社員紹介)採用に力を入れており、紹介した人に20万円、入社する人に10万円の報奨金を出している。一方、保育、ベビーシッター大手のポピンズホールディングスでは年俸制の人事評価制度を取り入れ、「年収1000万円の保育士出身の施設長も出てくるだろう」と中村紀子代表取締役会長は明言する。どこも保育士の確保に必死なのだ。

 そんな業界の足元を見た人材紹介会社は紹介料をつり上げている。「18年度は新規採用費用だけで5億円掛かった」とある保育園グループ経営者は苦い顔で言う。

 それでも、それだけの金を出して採用に臨めるのは、株式会社系の保育園が保育園事業以外の周辺事業によって、コストを下げたり利益を上げるスキームを生み出してきたからだ。例えば業界トップのJPホールディングスでは、チェーン化でスケールメリットがあるのはもちろんのこと、給食事業や保育用品の物販事業を自社グループに抱えることでコストを下げ、かつ外販も始めている(下図参照)。