この収入研究では、もう一つ大きな示唆がある。入学した大学の違いは、その後の人生における収入の差にはあまりつながっていない、という点である。大学や高校の選択というのは、世の中で思われているほど重要ではないかもしれないのだ。
Q 子どもの才能は遺伝子検査で分かる?
A 「塾に通わせたり習い事をさせたりしたい。でも何に向いているか分からない。そんな親のために」「学習能力、感性など子どもの潜在能力が分かる」などとうたった、子ども向けの能力、性格などに関する遺伝子検査が人気である。
子どもの遺伝子を調べれば、本当に分かるのか。
「利用するなら“星占い”ぐらいのつもりで」と注意を促すのは、国立遺伝学研究所でマウスを用いた行動遺伝学研究に当たる小出剛准教授である。
一口に遺伝子検査といっても、その中にはフェニルケトン尿症、ハンチントン病などのように、病気の原因遺伝子が特定されており、遺伝子検査に大きな意義のあるものがある。
単一の遺伝子がもたらす疾患や遺伝性疾患とかを真面目に調べようという人にとっては、遺伝子検査は極めて重要なツールだ。
だが、現時点でできないことをうたっているケースもよく見られる。「子どもの能力や性格が分かる」というのもそうだ。
例えば、性格に関わる遺伝子について考えてみよう。これまでも、特定の遺伝子が性格と関連していることを発見! という報告もあることはあった。だが、いつの間にかトーンダウンしていく。
なぜ難しいのか。理由は明確だ。性格や個性など量的形質に関わる遺伝子は、少なくとも10個以上、おそらく数十以上の遺伝子が関わっていることが分かってきている。
多くの遺伝子が関わっているため、それぞれの遺伝子の効果は極めて小さい。しかも、どの遺伝子が関係しているのかは人によって違うこともある。特定のタイプの遺伝子型が組み合わさると、大きな効果を発揮するものもある。
遺伝子研究は日進月歩だ。新しい成果が続々ともたらされている。
米国の大規模研究では、人間の知能(インテリジェンス)の形成には52の遺伝子が関与していることを特定した。
日本人の16万人のデータ解析では、肥満に関して新たに112個の遺伝子位置を明らかにした。
また、110万人分のDNAのデータ解析から、人間の学歴に1271カ所の遺伝子多型が関わっていることが示された。
だが、現時点ではまだ分からないことだらけなのである。ゲノム遺伝学は、個性や才能を推定できるところまでは到達していない。
遺伝的には、万人が平等とはいえない。「何をするにしても“やりやすい、やりにくい”“できる、できない”という遺伝的な個人差が出る」(安藤教授)。にもかかわらず、子育てでも教育においても、無理に同じことをさせようというのは理にかなっていない。
行動遺伝学が私たちに教えるのは「多様性の大切さ」(小出准教授)である。