人的資本には整合的かもしれませんが、一方で日本人にはとてもハイリスクな運用をしているように見えます。でも私はこれでよいと考えます。なぜなら、IRAの資産は平均的な世帯の金融資産の一部でしかないからです。ICIによると、一世帯当たりの平均資産額は約25万ドル(約2750万円、除く自宅資産)を有しているのですが、IRAの資産は約6万2500ドル(約687万円)と全体の25%程度の割合しか占めていません。たとえIRAで高いリスクで運用したとしても金融資産全体ではそんなに高いリスクにはなっていない可能性が高いのです。また、長生きリスクの観点からもしっかり増やす運用を行っているのは理にかなっているのです。

日本のiDeCoの現状

 次にiDeCoの現状を見てみましょう。従来の個人型確定拠出年金がiDeCoにアップデートされてから順調に加入者数は増え、2018年8月末で100万人を突破しました。一方、全加入対象者は6731万人(公的年金の被保険者全員、2017年3月末)なので、加入率は高々1.5%程度でしかありません。IRAと比べると比較にならないほど、普及していないのです。また一人当たりの平均残高は144万円と、これまたIRAと比べて低い額となっています。少額ならリスクをとれるにもかかわらず、実態は資産の約65%が預貯金や保険商品などのいわゆる元本確保型に投資されており、かなり低リスクな運用をしている人が多いと推察されます。要は同じ老後資金のための制度であるにもかかわらず、活用方法がまったく異なるのです。なぜ、こんなにも違いが生じてしまうのでしょうか?

必要なのは「貯蓄枠」だけではない

 1つには、DCにおけるデフォルト商品の影響が大きいと考えられます。前述の通りIRA加入者の多くが転職の際にDCなどから資金をIRAに移しています。アメリカのDCではデフォルト商品として、ターゲット・イヤー型ファンド等が一般的であることから、リスクをとった運用に慣れている人が多いのだと思われます。したがって資産を移す際にも、相応のリスクをとった運用がそのまま継続されているのだと考えられます。

 もう1つは、プロのフィナンシャル・アドバイザーの存在です。ICIのレポートでは、IRAを利用している家計の75%が老後の戦略を計画する際、プロのフィナンシャル・アドバイザーに相談しています。このようにプロが育っており、それに相談する習慣があることも、日米間でこんなにも差がついてしまった要因と言えるのではないでしょうか。

 このままでは「貯蓄枠」を導入しても『国民皆運用』にはなりません。IRAを導入しても、デフォルト商品やプロのアドバイザーの育成などをしない限りは、元本確保型に資産が滞留してしまう可能性が高いのです。制度だけでなく、それが有効利用されるような環境も合わせて導入してもらいたいものです。

今回の川柳
貯蓄枠 運用促す きっかけに

(アライアンス・バーンスタイン株式会社 AB未来総研 所長 後藤順一郎)

※本記事中の発言は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属するアライアンス・バーンスタイン株式会社の見解ではありません。