日本のビジネス現場には「自分、数字に弱いんですよね」「ロジカルに考えることができなくて……」などと、左脳系のスキルにコンプレックスを抱く人が少なくない一方、感性やひらめき、創造性、イノベーションといった領域にネガティブな反応を示す人も相当数いる。

「絵が苦手で……」とか「学生時代は工作センスが絶望的でした」といった語りも、右脳的なものに対するアレルギー反応の一種だろう。戦略デザインの仕事をしているせいか、僕の体感値としては、後者のコンプレックスを抱く人のほうが多いように思える。

そんな人にまず考えてみていただきたいのが、それ自体が1つの思い込みだという可能性だ。

「絵や工作が苦手」「発想センスがない」というのは、学校教育やビジネスの現場を通じて刷り込まれた認知的歪みかもしれない。そもそも僕たちは、直感を磨くための教育や訓練を受けていない。

これは裏を返せば、感性や直感に関わる能力には、まだまだ大きな伸び代があるかもしれないということだ。ここから論理や戦略の力を飛躍的に高めるのはかなり大変だろうし、いくらでも「猛者」がいるこの世界で抜きんでるのは至難の業だろう。

他方、まだ多くの人の注目が集まっていないビジョン思考の領域であれば、勝算は一気に高まるはずだ。個人としての成長戦略の視点で考えても、経営上の投資効率という観点からしても、今後、ビジョンに基づいた思考の力を磨いていくことは、理にかなっているのだ。

実際、脳内のネットワークやその働きは「使い方」次第で、かなり変化することがわかっている。これを脳の「可塑性」という。よく動かしている筋肉ほど大きく育つのと同様、活性化する頻度が高い部位から脳は鍛えられていくのである。

じつのところ、スマホをあたりまえのように使うようになった現代人は、日々スマホの画面で写真や動画を見たり、SNS上を流れる脈絡のない情報を処理したりすることに慣れている。

かなりの情報を「文字」を通じてインプットしていたひと昔と比べると、現代人は、全体を大づかみに把握する「右脳」的な脳の使い方をする機会が、爆発的に増えているはずだ。ちょっとした意識づけ次第では、以前よりもはるかに「右脳」を育てやすい環境にあるのである。

「頭」で考えていては淘汰される。
「手」で考えるには?

さらに未来に視点を移すなら、ビジョン思考の「メソッド」は、あなたにとってCAN(できること)であるどころか、SHOULD(すべきこと)にもなっていくだろう。