人工知能研究の権威である未来学者レイ・カーツワイルは、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という概念を提唱したことで知られている。これは言ってみれば、人工知能(AI)が人間の脳を超えることになる、ある特定の時点のことを意味している(この概念自体がある種の「ビジョン=妄想」であることにもぜひ注目してほしい)。

カーツワイルは、著書『シンギュラリティは近い』(NHK出版)のなかで、人間の脳とコンピュータの特徴を比較している。

彼によれば、人間の脳はアナログ回路であり、デジタル型であるコンピュータ回路と比べると、圧倒的にスピードは遅い。その一方で、人間の脳には、あちこちの場所が同時発火する「超並列型処理」という顕著な特徴がある。最大100兆回の計算を一瞬で行うというこのメカニズムのおかげで、人間の脳内では「予期せぬつながり」が生まれる。これが、いわゆる「ひらめき」の正体だ。

創造的な思考にとって、いわゆるVAK、すなわち、目で見たり(Visual)、耳で聞いたり(Auditory)、身体で感じたり(Kinesthetic)といったインプット/アウトプットが有効であるのも、僕たちの脳が超並列型の特性を持つことと関係している。

ただじっと座りながら考えて脳の一部を使うのではなく、さまざまな感覚器官からインプットしたり、手や身体を動かしたりすることで、脳内のいろいろな部位が同時発火する状態をつくることができる。こうすることで、人間の脳はコンピュータには成し得ない働きをし、新たな発想の結合を生み出すことができる。

実際、人間の神経細胞(ニューロン)は、全身を均等に司っているわけではない。下の図は、「ペンフィールドのホムンクルス」と呼ばれるものだ。

センス、ひらめき、直感……「右脳コンプレックス」の自覚がある人がやるべきこと?写真 ©Mpj29

脳神経外科医のワイルダー・ペンフィールドは、脳と身体との対応関係を調べ、一種の「地図」をつくりあげた。それを元にして、脳内の対応領域が多い器官を、より大きく表現したのがこの「ホムンクルス」という人形なのだ。一目瞭然だが、こうしてみると、人間の神経細胞のほとんどは、目・手・口に関わる部分に集中していることがわかる。