子育て中の親の悩みが幸せに変わる「29の言葉」を集めた新刊『子どもが幸せになることば』が、発売即重版が決まり、静かな注目を集めています。

著者は、共働きで4人の子を育てる医師・臨床心理士で、20年間、5000回以上の面接を通して子育ての悩みに寄り添い続けてきた田中茂樹氏。親が「つい、言ってしまいがちな小言」を「子どもを信じることば」に変換すると、親も子もラクになれるという、心理学に基づいた「言葉がけ」の育児書です。

この記事では、本書全体のコンセプトを伝える「前書き」を全文公開します。書店さんで立ち読みするように、気軽にご覧になっていただければ幸いです。(構成:編集部/今野良介)

「出木杉くん」を演じ続けて生きてきた

ドラえもんに出てくる「出木杉くん」
クレヨンしんちゃんの
「カザマくん」
サザエさんの
「カツオ」
ちびまる子ちゃんの
「まる子」

あなたは、どのキャラクターが好きですか?

 

……どうでしょうか。

「カツオ」や「まる子」を選ぶ人が、多いのではないでしょうか。

その理由は、カツオやまる子のほうが、「子どもとしてラクそう」「人生を楽しんでいそう」だからではないかと、私は思います。

私は、田中茂樹といいます。医学部を出てから、大学院で認知心理学や脳科学を研究してきました。言葉を話したり、他人の心を感じたりする脳の働きについて、論文や本を書いていました。

そのなかで学んだことの1つは、「生き物の強さ」です。

今、生きているすべての生き物は、気の遠くなるような長い時間、過酷な環境を生き抜いてきました。人間も、数百万年前に立って歩き始めた頃から、ずっと進化を続け、競争に勝ち残り、子孫を増やして生き延びてきたのです。

雨が降っても家はなく、夜になっても電気はなく。ひねれば水の出る蛇口があるわけでもないし、食べ物は毎日見つけなければならない。ノミや蚊に悩まされ、大型の獣に襲われ、病気や怪我をしても病院や薬はない。そんな状況で自分たちだけで子どもを産み、自然の中で育ててきた。何十万年も何百万年も、熱帯や砂漠や寒冷地でも生き続けてきた。私たちも、私たちの子どもも、その子孫です。

赤ん坊は、弱い存在だけれど、「自分が生き残るためにどうすればいいか」「自分が幸せになるにはどうしたらいいか」という本能を備えて生まれてくる。

心理学や脳の研究、医師としての仕事を通じて私が確信したのは、この点です。時代や環境は変化しますが、どんな環境でも、自分が生き残っていくためにどうしたらいいかを見つけていく力が、子どもには備わっています。

『子どもが幸せになることば』という本で私が書きたいことは、2つあります。

まず、子どもに「元気」でいてもらうには、親としてどう接するのがいいのか、ということです。

子どもはもともと元気な存在です。元気であれば、「幸せになるためにどうしたらいいか」を、自分で探して動き始めます。

そしてもう1つ。育児はそれ自体が目的であり、手段ではないということ。子どもとすごすこと自体が、とても贅沢で幸せなことであるということです。

本書は、この2つのこと、つまり子どもが元気になる親の関わり方、そして、親が育児の幸せを感じられるようになるために、私がよいと思うことを、日常生活の親子の関わりの中で実践できる「言葉がけ」にまとめたものです。

子どもが赤ん坊の時期から高校生ぐらいまで、日常でよく見かける29の場面を取り上げて、「言いがちなことば」と「信じることば」を対比させて紹介していきます。

「言いがちなことば」は、子どものためを思って言ってしまいがちだけど、実は親が目先の安心を得ようとしていて、子どもの元気を奪う言葉です。

「信じることば」は、子どもの元気を引き出し、親自身の気持ちもぐっとラクになる言葉です。そして、子どもの幸せな自立につながる言葉でもあります。

そんな本を書く私は何者かということを、もう少しだけ説明しておきます。

私には4人の子どもがいます。そのうちの3人はもう家を離れて暮らしていますが、全員、やんちゃな男の子でした。私は、大学院で認知心理学や脳科学の研究をしたあと、臨床心理士を育てるための大学院で教員になりました。そこで働くうちに、脳の働きを調べることから、人の心を癒すカウンセリングのほうに興味が移っていきました。

臨床心理士の資格を取り、カウンセリングの勉強をする中で、自分自身の心について、たくさんの気づきがありました。

その1つは、私自身が、子どものころからずっと、親を喜ばせるために、知らず知らずのうちに「出木杉くん」を演じ続けて生きてきたということでした。

勉強はできましたが、自分が何をしたいのかということは、ずっとわからないままでした。そのためにずっと苦しんできたと、ようやく気がついたのです。

自分の心に正直に向き合おうとしながら、4人の子どもの育児を妻と一緒に経験できたことで、私は、いろいろな思い込みや呪縛から解放され、心理学の知識が実践的な知恵になっていったと感じています。

そして現在は、医師として外来診察や往診など地域医療で働きながら、カウンセラーとして子育ての問題に悩む親の相談を受け続けています。この20年ほどの間、5000回以上の面接を通して、育児の問題に関わってきました。

また、15年ほど、地域の子どもたちのレクリエーションサークルを主催していました。数十人の小学生と、毎週のように、近所の小学校の体育館で遊びを通して関わってきました。

児童精神医学や発達心理学の専門家ではないですが、4人のやんちゃな男の子を育て、多くの子どもたちと15年間毎週遊び、今でも毎日のように子育ての悩みを抱える親と接している医師かつ臨床心理士、というのは、そう多くないのではないかと思います。

 

私が日々接している親御さんは、本当にさまざまな悩みを抱えています。

「どうサポートしたら、この子は幸せになれるのだろうか……」
「育児を失敗して、この子を不幸にしてしまったらどうしよう……」
「どうすれば(親がよいと思う方向に)子どもを導けるのだろう……」

子どもをかけがえのないものだと思うからこそ、親はいつも心配しています。私も始めはそうでしたから、不安な親の気持ちはとてもよくわかります。食べ物も環境もしっかり整えてあげなければいけないと、心配ばかりしていました。

親を不安にさせるのは、食事や健康面だけではありません。受験や語学などの勉強、感性を磨く、健全な脳を育てるなど、「正しい子育て」の方法の知識は、生活全般にわたります。そういった育児書もたくさんあります。

まじめな親ほど、そうした情報にプレッシャーや不安を感じてしまうでしょう。

でも、少しだけ考えてみてください。

「いまの良くない状態を、どうやって目標の状態に変えていけばいいのか」とか、「子育てを成功させなければいけない」というような姿勢で子どもに向き合うのは、しんどいし、楽しくないと思います。育児がずっと辛抱の時間、課題をこなすような時間になってしまいかねません。

子どもがどんな大人になるかという、その「結果」だけがすべてであるかのように、苦しみに耐えるかのように毎日を過ごしている親がとても多いと、日々のカウンセリングを通して感じるのです。

それに対して「この子のいまの状態が、次の段階に成長するのはいつかな?」と楽しみに待つような向き合い方は、ラクです。不安よりも楽しみが多くなります。それだけでなく、将来のいろいろな場面で「この子はなんとかするだろう」という気持ちをもてる下地が、親のほうに作られていきます。

そして、不思議なことに、親がそう思ってくれているということを感じ取るかのように、子どもには少しずつ、しっかりと自信が育っていくのです。

そういう実際のエピソードを、本書ではたくさん紹介していきます。
だから、どうか気を張らずに、気楽に読み進めてみてください。

「元気」でいさせてあげるために。

 

最初にはっきりと書いておきますが、私は臨床で出会った多くのケース、そして自分の育児を通して「ラクに育てていい」と確信を持っています。

しかし、読者に「こうすべきだ」といいたいのではありません。それぞれの親子の状況は違うし、なにが「よい」のかだって家庭によって違うはずです。子どもにラクに接してもいい、やさしく接しても大丈夫なんだよということを、育児が楽しめていない親に知っていただきたいのです。

そして、「そういう接し方もあるのか」と知ることで、子どもにイライラすることが少しでも減ればと、私は強く望んでいます。

親がイライラしているのは、子どもにはつらいことです。
逆に、親がいつも楽しそうにしていることは、子どもを安心させます。

 

子どもをどれだけ安心させられたか。
いかに楽しい気分で、子どもとの時間を過ごせたか。
「そのままの自分を、親は大切に思ってくれているんだ」
「親は、自分が生きているだけで幸せだと思ってくれているんだ」

 

そのような感覚を持てることは、子どもが、この先の幸せな人生に向けて貯金するようなものです。

その貯金は「しんどいことがあっても、まあなんとかなるよな」という根拠のない楽観性となって、何度となく訪れる人生のピンチで子どもを支える宝物になります。それは、成績や学歴よりも、ずっと強い力です。

ひょっとしたら、この本を手に取ったあなたも、私の元を訪れる親のように、子育てに悩みを抱えていらっしゃるのかもしれません。本書をお読みいただく方にも、そうでない方にも、どうか1つだけ、覚えておいていただきたいことがあります。

今、あなたのそばで、わがままを言ったり泣いたりしている子どもの関心のすべては、あなたに向けられています。でも、やがて、ほんとうにあっという間に、あなた以外のほうに関心が向いていくようになります。

子どもの生活のすべてを親が知っている。
子どもがいつも「お父さん」「お母さん」と呼びかけてくれる。
そういう日を懐かしむ日が、すぐにやってきます。

いま、幼い子どもといられる短い期間を、ぜひ大切にすごしてください。
本書で紹介する場面に出会ったとき、子どもが現実の厳しさを知って困っているようなときこそ、愛情を注ぐチャンスだと思って、しんどい場面を、幸せな状況に切り替えてください。

あなたの子育てが、いまよりもっと、幸せなものになることを望んでいます。