発売60周年で過去最高売上を記録した「チキンラーメン」。そのキャラクター「ひよこちゃん」が公式ツイッターやホームページで、「やってられっか!」「ひよこにチキンラーメンの宣伝させるなんてどうにかしてる」と突然悪態をつくなど、型破りなブランドコミュニケーションを仕掛ける、日清食品の安藤徳隆社長。創業者・百福氏のかばん持ちを務めた経験もあり、創業の精神を色濃く引き継ぎながら、コミュニケーションをテコに新たなファンを開拓し、4期連続の過去最高売上高更新をめざします。『マーケティングの仕事と年収のリアル』著者・山口義宏さんが、日清食品の意表を突くマーケティングが成功に至るまでの取り組みについて聞きました。(撮影:疋田千里)
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山口義宏さん(以下、山口) 日清食品は強みとして「技術イノベーション力」とともに「マーケティング力」を謳っておられ、「ブランディングコーポレーション」を実現すると明言されています。「マーケティング」というのは非常に定義が曖昧でもありますが、あらためて日清食品にとってのマーケティングとは?
日清食品株式会社 代表取締役社長
1977年生まれ。2004年安藤スポーツ・食文化振興財団を経て、2007年日清食品に入社。経営企画部長に就任し、以後、日清食品ホールディングス取締役・グループマーケティング責任者(CMO)、専務、米州総代表、グループ戦略責任者(CSO)を歴任する。2015年4月より現職。
安藤徳隆さん(以下、安藤) 「経営」そのものがマーケティングだと考えています。中でもブランディングを特に重視しています。
山口 日清食品で現在のようなブランドマネージャー(BM)を置く体制ができたのは、安藤社長の父でいらっしゃる、現日清食品ホールディングスCEOの安藤宏基氏が日清食品の社長だった当時からですよね。当時、きちんとブランドマネージャー制度を実装できている会社は日本にほとんどなかったと思います。相当早いですよね。
安藤 日清食品は、プロモーションに限らず、ユニークなことをどこよりも先にやりたがるところがあります。世の中にないものを生み出したい、という「作りたがり」なんですね。少し真面目にいえば、ブランドや人材を磨き、強くしていくにはどうすればいいかと考えた結果、社内競争を徹底的に煽っていこうという結論に至って、BM制度をスタートさせたんでしょう。「カップヌードルをぶっつぶせ!(かつて、宏基CEOが創業者の築いたレガシーを乗り越えようと掲げたスローガン)」という言葉に代表されるように、他人につぶされるぐらいなら、自分で潰してしまえ、という発想が「イズム」としてあります。
山口 「カップヌードル」を超えるブランドが出てきていないことが、社内的には永遠の壁になっているんですか。
安藤 「カップヌードル」は間もなく1年間に1,000億円を売り上げるブランドになりますから、ちょっとやそっとじゃ潰れない存在になっています。しかし、私自身もそういったイズムにさらされて育ってきましたから、いっそのこと「会社ごと潰してしまおう」かと考えてます(笑)。
山口 そのままタイトルにされそうな発言ですね(笑)。カンパニーBを作るわけですか。
安藤 殻を破るには、インスタントラーメンや現在の事業会社そのものを陳腐化するような新しい視点から挑戦するしかない。社長に就任したとき、「100年ブランドカンパニーへの挑戦」をスローガンに掲げました。それは、「カップヌードル」のような今あるブランドの価値を最大化するにはどうすればいいかを意味し、その一方で「Beyond Instant Foods」をキーワードにして、まだない新たな価値を創造する取り組みも水面下で続けています。
インスタントラーメンによって新しい食文化が誕生してから、それを塗り替えるようなレベルのものは出せていない。まだ詳しくは話せませんが、将来、新しい食文化が生まれたと言えるような取り組みを、今まさに仕込んでいるところです。「日清のどん兵衛」や「日清焼そばU.F.O.」のように同じ土俵で「カップヌードル」と戦うだけでなく、新しい領域に踏み込んで挑戦するほうが、結果的に「カップヌードル」をぶっ潰すようなものを生み出すことになるかもしれません。
山口 楽しみですね。