「付加価値」を高価格と間違えてはいけない

山口 先ほどのお話からすると、80年代から社内では「ブランド」を強くするという概念が明確にあったわけですね。

安藤 もちろんです。当社では、付加価値をどうすれば高められるのかを、ブランドごとに考え続けています。お客さまに「高付加価値」と認めていただいたからこそ、「日清のどん兵衛」や「日清焼そばU.F.O.」も40年以上にわたるロングセラーブランドになったのだと考えています。

山口 海外で伸びている印象は強いですけど、国内でも伸び続けているのがすごい。国内市場は、高齢化も進み、胃袋の総需要のメガトレンドは弱含みですし、なにより国内大手の小売は低価格なPBの棚を強化している印象もあり、決して市場環境が特段良いように見えません。

安藤 国内市場でも伸び続けています。胃袋が減少する中、国内総需要は4年連続で過去最高を更新していますし、特に2018年度は「チキンラーメン」ブランドが発売60年目にして過去最高売上を更新しました。

他人に潰されるくらいなら自ら破壊せよ!という日清食品「イズム」を根づかせる爆笑会議 山口義宏(やまぐち・よしひろ)さん
インサイトフォース代表取締役
東証一部上場メーカー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年にブランド・マーケティング領域支援に特化した戦略コンサルティングファームのインサイトフォース設立。大手企業を中心にこれまで100社以上の戦略コンサルティングに従事している。著書に『デジタル時代の基礎知識『ブランディング』 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(翔泳社)など。東京都生まれ。

山口 商品としては定番のコモディティと言えるカテゴリで、それこそ飽きられてもおかしくないロングセラーブランドですが、ものすごく巧みに話題化する広告プロモーションで、売上数字を伸ばせるというのは驚きです。実際に他社のマーケターとの会話でも「日清食品は、あそこまでやりきれるのがすごい」という話がよく出てきます。

安藤 ただし、無茶なマーケティングをしてますから、役員会ではよく怒られてますけどね(笑)。

山口 それは内容に対してですか?それとも金額ですか?

安藤 内容です。広告宣伝費の総額は、ここ10年ぐらい変わっていませんが、今はどれだけネットでも話題にしてもらえるかが勝負の時代です。当社の場合、今もテレビが宣伝の基軸ですが、テレビCMをSNSで拡散させることができれば、CMのオンエア回数が少なくても、従来以上の広がりが期待できます。ただ、そのためには「チキンラーメン」のひよこちゃんが悪魔に変身するような、インパクトのある尖った内容のものが多くなるので、役員会だけでなく、お客さまからも「子どもが泣くからやめてくれ」といったお声をいただきました(笑)。

山口 かわいいひよこちゃんが、いきなりキレキャラになったときは、twitterのアカウントを乗っ取られたのか等、すごい話題になりましたね。

安藤 「チキンラーメン」を大事に育ててきた先輩役員からすると、「どこまでやるんだ」と心配になるのも無理ないですよね。「ひよこちゃんが暴れるのは今回だけですから」と頭を下げてOKをもらったんですが、近々もう一回変身させるつもりなので、また怒られますね(笑)。