3月に入り、今年も就職活動が実質的に解禁された。「売り手市場」と呼ばれ、学生優位に活動が進んでいると思われているが、さまざまなデータをみていくと、すべての業界・企業で売り手市場とはとても呼べない状況だ。一体、いま就職市場では何が起きているのか。現在発売中の『息子娘を入れたい会社 2019』を一部抜粋し、企業規模別・業種別の大卒求人倍率や就職活動をする学生の意識調査から、就職市場の実態をあぶり出す。(取材・文/古井一匡)
就職内定率や大卒求人倍率は
過去最高レベルだが……
いま、就職市場は「売り手市場」と言われる。就職希望の学生数よりも、企業側の求人数の方が多く、就職には有利な状況だというのだ。確かに、文部科学省と厚生労働省の調査では、2019年3月大学卒業予定者の就職内定率は77.0%となり、前年同期比1.8ポイント上昇(2018年10月1日現在)。1997年3月卒に調査が開始されて以来、同時期では過去最高となった。
就職情報各社の調査を見ても同じ傾向がうかがえる。
たとえば、リクルートワークス研究所の発表(「第35回 ワークス大卒求人倍率調査」)によると、2019年3月卒業予定の大学生・大学院生に対する全国の民間企業の求人総数は、前年の75.5万人から81.4万人へと5.8万人増加(対前年比+7.7%)している。一方、学生の民間企業就職希望者数は、前年とほぼ同水準の43.2万人(対前年比+2.1%)。求人に対して38.1万人の人材不足となった。その結果、大卒求人倍率は1.88倍と、前年の1.78倍より0.10ポイント上昇している。
こうした状況において、学生の間には“楽勝”ムードが漂っているのである。
規模や業種別の差が大きい
「売り手市場」に潜む落とし穴
しかし、世間で言われる就職内定率や求人倍率などのデータは全体の平均であることが多い。実態を詳しく見ていくと、別の様相が浮かび上がってくる。
いま触れたリクルートワークスの調査によると、従業員規模別が5000人以上の大企業の求人倍率は0.37倍にすぎず、しかも前年の0.39倍からむしろ0.02ポイント低下している。1人の採用枠に3人の学生が応募しているのである。
一方、300人未満の企業(中小企業)ではむしろ9.91倍と、前年の6.45倍から3.46ポイントも上昇して過去最高となった。1人の学生に対し、10社の求人がある計算だ。
業種別の差も大きい。人手不足が深刻になっている流通業の求人倍率は12.57倍と、前年の11.32倍より1.25ポイント上昇。建設業の求人倍率も9.55倍と、前年の9.41倍より0.14ポイント上昇している。
その一方、金融業は0.21倍、サービス・情報業は0.45倍にすぎない。
企業規模や業種による求人倍率の差がこれだけ大きいと、決して「売り手市場」で学生優位と言えるような状況ではない。
当然、就活の方法も変わってくる。「売り手市場」という表面的なムードに流されていると、苦戦することは間違いない。