「どうすれば、一生食える人材になれるのか?」
「このまま、今の会社にいて大丈夫なのか?」
ビジネスパーソンなら一度は頭をよぎるそんな不安に、新刊『転職の思考法』で鮮やかに答えを示した北野唯我氏。
もはや、会社は守ってくれない。そんな時代に、私たちはどういう「判断軸」をもって、職業人生をつくっていくべきなのか。本連載では、そんな「一生を左右するほど大切なのに、誰にも聞けないこと」を北野氏が解説する。

三菱商事、三井物産、マッキンゼー、GS、電通らの社員が抱えていた切実な不安

「何歳が、転職のリミットなのか?」

と聞かれたらみなさんはなんと答えるでしょうか。

現代はすでに二人に一人が転職する時代です。加えて「人生100年時代への突入」により、一生のうちに一社だけに勤める人の割合は今後も減っていくと予測されます。僕は最近、そんな「転職が当たり前になりつつある時代」を象徴する出来事を目の当たりにしました。

以前、友人と「職業人生の設計」に関するトークイベントを実施したときでした。土日開催で有料。しかも、告知はブログのみ。僕らは10名程度の参加を想定していました。しかし、ふたを開けると定員10名に対して300名の応募がありました。加えて、応募者リストを見ると驚きました。

三菱商事、三井物産、マッキンゼー、ゴールドマン・サックス証券、電通、フジテレビなど就活の「勝ち組」と呼ばれるような若手がゴロゴロ応募してくれていたのです。不思議ではないでしょうか。なぜ、彼らのように「社会的には勝ち組」と呼ばれる人たちが、土日のイベントにわざわざ応募してくれたのか。それは日本の「構造的な問題」に起因しています。

日本の労働システムは「転職市場で価値のない40代」を大量に生産する

マッキンゼー、三菱商事……就活の「勝ち組」から、若手の離職が止まらない理由北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。

いわずもがなですが、日本の伝統的な大企業の多くは「年功序列制」を導入しています。最近は少しずつ「実力に基づく給与」に移行しつつあるものの、依然として年齢に基づく基本給を設けているところが少なくありません。

加えて総合職採用とジョブローテ―ションの仕組みは、深い専門性を身につけさせないまま40代に突入させることも多い。

結果的に「転職市場で価値のない40代」が大量に生み出されます。

少し前に「ウィンドウズ2000」と呼ばれる問題がネット上で話題になっていたのをご存じでしょうか? これは、商社に勤める窓際族が年収2000万円をもらっている現状を揶揄したものでした。

別の例を挙げましょう。あるキー局の社員はこう語ってくれました。「総合職でも20代は年収600万円程度。一方で何もしない50歳の人間は年収2000万円はもらっている。明らかにおかしい」と。激務で高給取りのイメージがあるキー局ですら、もうそのねじれが起きているわけです。

この「若い人が割りを食う構造」に若者は感覚的に気づいています。だからこそ、いま優秀な若者から「このままではまずい!」と飛び出そうとしているわけです。これが「就職勝ち組」といわれる人たちがイベントに殺到した構造だと思われます。

ジョブローテーションは、じつは「キャリアの選択肢」を狭めている

「若い人ばかり割りを食っている。損だ」

という気持ち。

私自身もかつて、日系の大企業に勤めていた経験があるので、この気持ちはよくわかります。正直、当時は「働かないのに給料だけ高い窓際おじさん」にイラついていました。しかし、今、人材業界にマーケット身を移し、産業構造全体を見たとき、少し違う感想を持つようになりました。

悪いのは、窓際族のおじさん以上に、むしろ「システム」です。具体的にいえば、日本の「一括採用」×「ジョブローテーション」の弱点は「転職価値のない30~40代」を大量に生み出すシステムになっていることです。

日本企業の多くが取り入れる「一括採用からのジョブローテーション」という制度はたしかに「社内のことを知るため」には素晴らしい制度です。20代のうちに3年ずつ3つ程度の部署を経験する。結果的に「社内で顔を知っている人」がどんどん増える。

この社内人脈は40~50代になったときに役に立ちます。関係各所の調整がしやすくなるからです。あるいは、仮に今の部署で活躍できなくても他の部署に回しやすくなる。つまり「社内のキャリアパス」は最大化されています。

一方、外資系企業のほとんどは違います。彼らの多くには「部署があらかじめ決められた、プロフェッショナルとしてのキャリアパス」が用意されています。3年程度実務経験を積み、若手の育成を担当しはじめ、5-6年すると一つの領域に関してはかなり深い経験を得ます。そして30歳になる頃には、チームマネージャーを経験し、はやくも「プロフェッショナルとしてのキャリア」が完成します。

新しい専門性を付けたければ、今の専門性を軸に新たに挑戦すればいいですし、もし今の専門性をさらに深めたければ、その道を極めていけばいいわけです。少なくとも食べていくための「軸」が存在しています。

何が言いたいか?

それは「日本型の総合職採用とジョブローテーション制度は、あたかもキャリアの選択肢が広がっているように見えて、実は狭くなっている」

ということです。

求人倍率を軸に「市場価値のある自分」を目指し、優秀な人材ほど30歳前後で決意を固める

おもしろいデータがあります。

これは転職マーケットの業界別の「求人倍率」と「平均年収」です。これをみると明らかに「どの業界、どの職種を選ぶか」で将来勝ち組になれるかどうかが決まっていることがわかります。求人倍率が高く、年収が高い企業はまさに「成長産業」です。

あなたの業界はどこに位置しているでしょうか?

マッキンゼー、三菱商事……就活の「勝ち組」から、若手の離職が止まらない理由

さて、冒頭の質問に戻ります。

「何歳が、転職のリミットなのか?」

と聞かれたら、結論は「タイムリミットはない。しかし、市場価値は35歳までにほぼ決まる」です。

構造さえ理解すれば、今からでも、絶対に遅くありません。

2人に1人が転職する時代、一緒に自分のキャリアを振り返る機会を持ちませんか?