ホックシールド博士いわく、感情労働とは「公的に観察可能な表情と身体表現を作るために行う感情の管理であり、それは賃金と引き換えに売られるため<交換価値>を有する」と定義されます。

 簡単に言うと、感情労働者には、サービスや商品を提供する際に笑顔や明るい声などを作り出すことが業務の一部として当然のように課せられており、それに対する報酬も給与に含まれているというわけです。すなわち、感情労働とは、頭脳労働における頭脳(専門的な知識や情報処理能力)や肉体労働における肉体(筋力などの身体能力)のように、感情を仕事に欠かせないツールとして用いる労働形態の一種といえるでしょう。

客室乗務員と債権回収人は、
どちらも「感情労働」を強いられる典型例

 博士は、感情労働の典型例として、同じ航空会社に勤めている客室乗務員と債権回収人にスポットを当てました。前者は、全ての乗客に対して常に笑顔で接し、丁寧なおもてなしをすることが職務として要求され、後者はフライト代金の未払い分を顧客から回収するために表情や口調をあえて厳しいものにし、時には威嚇することまでもが仕事の一部となります。

 一見、真逆の職務内容に思えますが、両者には1つの共通点がありました。それは「職務上適切な、もしくは不適切な感情表現が決められており、それに従った感情の管理を求められる」という点です。

 ようするに、感情労働は、職業ごとにマニュアルで明示的に、もしくは暗黙裡に定められた感情管理を行って、顧客に満足感や安心感、購買意欲といった感情を抱かせることを目的に行われるのです。

 では、そのほかにどのような職業の人たちが感情労働を行っているのでしょうか。代表的なのは看護師や教師などいわゆる対人援助職と呼ばれる人たちです。飲食店店員やコールセンターといった接客業の人たちも当てはまります。

 とはいえ、それ以外の職業の方たちは感情労働をしていない、と決めつけるのは早計です。むしろ現代においては、さまざまな職業分野でサービスという側面を重視することが当たり前になってきています。よって、人と関わる仕事をしている人たちは皆、大なり小なり感情労働をしていると言っても過言ではありません。