Process:仕組みを整えれば意思決定もよりよくなる

 スタートアップの業務には、定型的で決まり切ったプロセスを、迅速かつ間違いなく回していくような業務もあります。これらを仕組み化して確実にこなせるようになれば、不確実性の高い業務に集中して取り組む時間を捻出できるようにもなります。

 この「仕組み化」で有名なのが、ハーバード大学医学大学院の外科学教授アトゥール・ガワンデが推奨するチェックリストです。

 読者の皆さんの中には「チェックリスト? そんなの当然じゃないか」とバカにされる方もいらっしゃるかもしれません。しかしガワンデたちは、数分でチェックできるチェックリストを世界各国の病院に導入することで、合併症の発生率を35%程度下げ、死亡率を47%下げることに成功しました。これは投薬の効果よりも大きかったとも言われています。さらに、2019年に報告されたスコットランドでの例でも、セーフティチェックリストが導入された後は、術後の死亡が2008年時に比べて37%も下がったとありました。TwitterやSquareの創業者であるジャック・ドーシーは一時期、ガワンデの著作『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』をSquareの新入社員の必読書にしていたぐらいです。

 また、起業家にとって最も重要な仕事である意思決定についても、仕組み化しておけば認知バイアスを低減しながら適切に進められるようになります。例えば人材採用の面接では、自由に質疑応答をする「自由面接」よりも、特定の質問をするような「構造化面接」のほうが正しい判断ができると言われています。自由面接で臨んでしまうと面接官が確証バイアスの罠に陥ってしまい、自身の第一印象を確証付けるための証拠を探そうとしてしまうからです。このような仕組みや制度を定めることで、私たちは間違いをより少なくして、創造的なプラクティスに時間を使うことができるようになるでしょう。

環境を誰かのためによくしていくことの重要性

 奇遇にも本書の発売と同時期に、平成31年度東京大学学部入学式での上野千鶴子さんの祝辞が話題になりました。その祝辞の中でも、恵まれた環境に感謝をして、環境を誰かのためによくしていくことの重要性が伝えられています。本書でも、みんなで環境をよくするための知見をまとめているつもりです。『成功する起業家は「居場所」を選ぶ』を通して、自らの環境だけではなく、誰かのための環境をよくしていくことを実践する人が増えることを願っています。

馬田隆明(うまだ・たかあき)
University of Torontoを卒業後、日本マイクロソフトに入社。「Microsoft Visual Studio」のプロダクトマネジャーやMicrosoftの最新技術を伝えるテクニカルエバンジェリストなどを務めた後、スタートアップの支援を行う。2016年6月より東京大学 産学協創推進本部にて学生や研究者のスタートアップ支援活動に従事し、学業以外のサイドプロジェクトを行う「東京大学 本郷テックガレージ」や、卒業生・現役生・研究者向けのスタートアップのインセプション(起点)プログラム『東京大学 FoundX』でディレクターを務めている。