デジタル時代はスピードばかりが礼賛され、「便利なものこそ効率がいい」と考えてしまう。しかし、真の効率のよさは、スピードが速いことではない。本当に大切なこと、大切な人と、もっと時間をすごすことだ。そのために有効なのが、いま世界中で話題になっている、手書きを活かした箇条書きノート術「バレットジャーナル」だ。本連載では、発案者であるライダー・キャロル氏が書き下ろした初の公式ガイド『バレットジャーナル 人生を変えるノート術』から本文の一部を抜粋して特別公開する。

記憶、情報整理、精神の治癒……<br />手書きが結局、いちばん効果的な理由
どんなに薄い墨でも、最高の記憶力に勝る。──中国のことわざ

手書きにはどんな効果があるのか?

記憶、情報整理、精神の治癒……<br />手書きが結局、いちばん効果的な理由ライダー・キャロル(Ryder Carroll)
バレットジャーナルの発案者。デジタルプロダクト・デザイナー ニューヨークのデザイン会社でアプリやゲームなどのデジタルコンテンツの開発に携わり、これまでアディダスやアメリカン・エキスプレス、タルボットなどのデザインに関わる。バレットジャーナルは、デジタル世代のための人生を変えるアナログ・メソッドとして注目を集め、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、ファスト・カンパニー、LAタイムズ、BBC、ブルームバーグなど多くのメディアで紹介。またたく間に世界的なブームとなる。初めての公式ガイドとなる本書は、アメリカで発売後ベストセラーとなり、世界29か国で刊行される。
著者公式サイト
http://www.rydercarroll.com/
バレットジャーナル公式サイト
https://bulletjournal.com/

 紙に書きだすと、思考に命を吹き込める。たとえ文章であろうと、イラストであろうと、メモであろうと、ペン先を動かすことで外の世界と内の世界を継ぎ目なくつなぎ、移行することができるのだ。

 目に見えないインターフェースで動いている世界において、昔ながらの手書きを要するノート術を活用するのは、まるで時代遅れの面倒な作業に思えるかもしれない。

 ところが現代のデジタル時代において、手で文字を書く作業を続けることの効用は、さまざまな研究によって立証されている。

手書きは記憶に定着しやすい

 ワシントン大学の研究によれば、手書きでエッセイを書いた小学生のほうが完成された文章を書き、読み方を習得するスピードも速いことがわかった。手で文字を書くという行為が、文字を書く──つまり文字を認識する──能力を高め、そのスピードを加速化するからだという(*1)。

 手で文字を書くという、触覚を使う複雑な動きは、キーボードで文字を打つ行為よりも脳を刺激する。脳の複数の領域を同時に活性化するため、学んだことを深いレベルで脳に刻み込めるのだ。その結果、アプリに指先でタップするよりも、情報を長く保存できる(*2)。

 ある研究では、授業内容をノートに書き留めるように指示された大学生のほうが、キーボードで内容を打ち込んだ大学生よりもテストの平均点がよかったという。彼らはまた試験のあとも長いあいだ、その情報を覚えていた(*3)。

 紙にペン先を置くと、脳を活性化できるだけではなく、その勢いを高められる。手で書けば、「考える」ことと「感じる」ことを同時にできるようになるのだ。

 こうした研究結果を見ていると、「手で文字を書く」という行為の利点が、手書きへの不満があるからこそ強調されていることがわかる。つまり、手書きは効率が悪いのだ。おっしゃるとおり。でも、「手で文字を書くと余計に時間がかかる」という事実は、認知機能の観点からは優位にはたらく。

 授業やミーティングの内容を、一言一句漏らすことなく、完璧に手で書くのはまず無理だ。だから手書きをするときには、無駄がないように工夫し、言語の使い方に留意し、自分の言葉でメモをとらなければならない。

 そのためにはもっと注意深く耳を傾け、情報について考え、みずからの神経学的な濾過システムを通じて、他人の言葉や思考の重要な部分だけを抜きだし、ページに書きださなければならない。

 一方、授業の内容をキーボードで打ち込む行為は、機械的な作業だ。いわば摩擦のないハイウェイをすいすいと走るようなもので、情報は右耳から入り、そのまま左耳から抜けていく。

 なぜ、自分の言葉で書き留めるのがそれほど重要なのだろう? 手で文字を書くと、その情報との関わり方が強化され、連想する思考力が高まることが、科学的にも証明されている。

新たなつながりを見つけられるようになるからこそ、型にはまらない解決策が浮かんだり、深い内省を得られたりするのだ。また意識を拡張すると同時に、理解を深めることもできる。

(注)
*1 Perri Klass, “Why Handwriting Is Still Essential in the Keyboard Age,” June 20, 2016, New York Times, https://well.blogs.nytimes.com/2016/06/20/why-handwriting-is-still-essential-in-the-keyboard-age.
*2 Pam A. Mueller and Daniel M.Oppenheimer, “The Pen Is Mightier Than the Keyboard,” Psychological Science 25, no. 6 (April 2014): 1159–68,
http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0956797614524581.
*3 Robinson Meyer, “To Remember a Lecture Better, Take Notes by Hand,” The Atlantic, May 1, 2014, https://www.theatlantic.com/technology/archive/2014/05/to-remember-a-lecture-better-take-notes-by-hand/361478.