米景気がピークを過ぎると、株安・ドル安になるのが典型的なパターンだ。日本の投資家は円高で、内外株式も外貨資産もほぼ全滅となりやすい。このため景気の終盤では早めに、益出しの売りをするよう勧めてきた。その上で、株安・円高を経て再購入の時機が来るまで一休みするか、債券など高利回り資産を物色するかが選択肢となる。

 投資サイクルの考え方では、景気終盤に利回りが上昇した債券を買うのが基本。高金利収入に加え、景気悪化過程で金利低下による値上がり益もある。しかし、近年の低インフレ環境で、先進国の債券金利はあまりに低く、値上がり余地も小さい。そこで、新興国の高金利債券へも関心が及んでいる。

 高金利の新興国は対外債務国(経常赤字国)ばかり。海外資金の流入が滞ると通貨も脆い。また、資源など1次産品の輸出が多い国は、商品相場に通貨が振られやすい。高リスク故の高金利である。高金利でも、その通貨・資産の値下がりが大きければ買いにくい。

 これら通貨が堅調になる最低要件は好景気とドル安。内外とも景気が良く、リスク投資マネーの国境越えが活発化すると、高金利の新興国へ流れ込みやすい。これで自国通貨高(ドル安)になると、ドル建て債務の返済負担が軽くなり、それがまた通貨高を促す好循環になる。逆に、景況悪化に伴う資金流入の停滞やドル高基調になると、大きく下落しやすい。

 図は、2011年以降のドル高局面での通貨の動きと経常収支を対比している。左から経常黒字新興国、経常赤字先進資源国、新興国を並べている。通貨不安の渦中のアルゼンチンを除くと、経常赤字と通貨の信用度、下落率のバランスを読み取れよう。この局面は多くの新興国が、通貨安による債務負担増、輸入インフレとなり、通貨安とインフレを抑止する利上げが景気悪化を招く悪循環に陥った。

 しかし、図のように16~18年末には下げ止まりつつある通貨が見られる。5年以上もリストラを進め、失地回復をうかがう新興国通貨も現れている。下げ止まり感のあるブラジルや南アフリカ共和国か、通貨不安定でも高金利のトルコか、投資家それぞれに狙い目はあるだろう。ただし来る局面の新興国にはまだ脆弱さが残る公算だ。

 ドル相場には10年下落と6年上昇の長期サイクルが観察される(下の図参照)。新興国通貨ブームはドル安サイクル10年の後半に明快に現れやすかった。今は新興国通貨を圧迫したドル高サイクル6年がようやく終わるところだ。

 来るドル安は、米景気の緩慢なピークアウトを映し、緩やかで一進一退になる可能性がある。新興国投資も単純な上昇軌道を描けず、対象と時機の選別が必要だろう。

(田中泰輔リサーチ代表 田中泰輔)