『イチローに糸井重里が聞く』は、数少ない「イチロー公認」の一冊だ。2004年に、BSデジタル放送民放5局(BS日テレ、BS朝日、BS-i、BSジャパン、BSフジ)の共同特別番組「キャッチボール・ICHIRO MEETS YOU」をもとに再構成されている。ヒット1本のためにすべてを捧げてきたイチローが、記録の先に見ようとした光景は何なのか。本書には、それを考える手がかりがある。

 結果が出ていないことを、イチローはスランプとは言わない。本書では「感覚をつかんでいないこと」と定義している。

糸井重里さんの言葉復刊した『イチローに糸井重里が聞く』(朝日文庫)の帯には、糸井重里さんが言葉を寄せてくれた 拡大画像表示

「バッターにとっては、ピッチャーがボールを放した時点か、もしくは放して近づいてくるところで、打てるかどうかが決まるわけです。バットがボールに当たる瞬間で打てるかどうかが決まるわけじゃないんです。ピッチャーが投げている途中で、もう打っている。その感覚が、なかったんですよね、当時のぼくには」(「一回裏 自分を客観的に見ること」から)

「当時」とは、オリックスでプレーしていたころのことだ。1994年に、210本安打を放ち、打率は3割8分5厘。その翌年からも好成績はつづき、打率は3割4分2厘(95年)、3割5分6厘(96年)、3割4分5厘(97年)、3割5分8厘(98年)と、誰も文句をつけられないような実績を残している。しかしイチローは、このときこそが、光が見えてこなかった「どん底のまっただ中」だったという……。