2000年代に入り、中国は米国に対する輸出を拡大することで、劇的な経済成長を成し遂げた。そして、米国で儲けたカネを使って、軍事力の拡大を進め、アフリカなどに巨額の投資をして拠点を作り、米国の地政学的優位性を揺るがせ始めた(第120回)。そして、「安かろう、悪かろう」の工業品や農産物の輸出から、ハイテク技術への転換を進めて、サイバー戦争でも優位に立ち、米国から覇権を奪おうという意欲を見せ始めた。

トランプ「世界戦略」の全貌がイラン制裁と米中摩擦で見えてきた本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されます。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 しかし、見方を変えれば、中国は「米国に食わせてもらった」からこそ、急激に経済成長できたといえる。トランプ大統領の中国に対する怒りは、ここに本質がある。そして、軍事的な拡大や地政学的な脅威や、ハイテク企業の成長に一つひとつ対応することも大事だが、より本質的には貿易を止めて中国に米国のカネが流れないようにすることが重要だと、「ディールの達人」トランプ大統領は当然考える。

 実際、報復関税合戦は、中国の一方的な敗北の様相を呈している。中国は経済が落ち込み、30年ぶりに経済成長率が6%を割り込むという予測が出てきた。一方、米国経済は好調を維持しているのだ。

 当初、米中は貿易摩擦では早々に妥協して決着し、舞台はハイテク分野に移っていくとみられていた。だが、今後も米国はなんだかんだと難癖をつけながら、貿易摩擦についても報復関税合戦を続けていくかもしれない。見方を変えれば、米国がハイテク分野で中国に注文を付け続けるのは、報復関税を続けるための方便だといえるのかもしれない。それが、より中国の本質的な弱点を突くことになると、トランプ大統領は見抜いている。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)