米中が互いに25%関税発動
民間企業ファーウェイも制裁対象に
そして、米中貿易戦争である。米国は2018年7月以来段階的に、計2500憶ドルの中国製品に制裁関税を課してきた。昨年末から、米中は貿易協議を開催し、決着点を模索してきた(第201回)。閣僚級協議を続け、「合意文書」の95%は出来上がっていたというが、中国が5月に入って見直しを求めるなど突然手のひらを返した。
米国は、まだ追加関税をかけていない残りの中国製品3000億ドル(約33兆円)分に課す制裁関税を10%から25%に引き上げることを決定した。トランプ大統領は最大の切り札を出し、「関税は圧倒的な富を米国にもたらす」とツイートを連発した。これに対して中国は、約600億ドル(約6兆6000億円)相当の米国製品に課している追加関税を最大25%に引き上げる報復措置を発表した。
だが、米国は中国への攻撃の手を緩めない。米国はファーウェイへの輸出禁止措置を発動したのだ。ファーウェイは、次世代通信規格「5G」で先行し、特許の国際出願件数は世界トップを占めるなど、中国のハイテク企業の代表だが、米国がファーウェイを制裁する理由はそれだけではない。
米国は、中国共産党や中国軍とファーウェイの深い関係を疑い、ファーウェイが米国の通信ネットワークへの侵入などを通じて安保を脅かす可能性があるとの見方を強めてきた。米国は、中国がサイバー攻撃などで奪ってきた知財をもとに、米国の経済・軍事面の覇権を奪おうとしているという疑惑を持ってきたが、ファーウェイはその疑惑のど真ん中にいるとみなされてきたのだ(第201回・P.5)。
「米国に食わせてもらって」成長した中国が
覇権に挑戦することへのトランプ大統領の怒り
米中貿易戦争は、派手な関税引き上げの報復合戦に注目が集まりがちだが、ハイテク分野で追い上げ、軍事・経済両面で覇権の座を奪おうとする中国と、それを防ごうとする米国の対立構図が本質とみられるようになっている。この連載も、そういう見方をしてきた。
だが、実は米中貿易戦争の肝は、中国製品に課す高関税そのものではないかと考えるようになった。その理由は、中国がなぜ米国の覇権を驚かすまで急激な経済成長を成し遂げたかを考えればわかる。
この連載では、トランプ大統領が登場する前の米国の国家戦略を振り返ってきた(第170回)。それはもともと第二次世界大戦後、ソ連・中国共産党などの共産主義ブロックの台頭による東西冷戦に勝利するための戦略であった。米国は世界各地に米軍を展開し、同盟国の領土をソ連の軍事的脅威から防衛し、米国自身と同盟国が安全に石油・ガスなど天然資源を確保するため、「世界の全ての海上交通路」も防衛する「世界の警察官」になった。
また、米国は同盟国に「米国市場への自由なアクセス」を許した。米国は、同盟国を自らの貿易システムに招き、工業化と経済成長を促した。その目的は、同盟国を豊かにすることで、同盟国の国内に貧困や格差による不満が爆発し、共産主義が蔓延することを防ぐことだった。この米国の国家戦略の恩恵を最も受けたのが、日本であることはいうまでもない。
ソ連が崩壊し、東西冷戦が終結した。この時点で、米国の国家戦略は変わってもおかしくなかったが、米国は唯一の覇権国家として、「世界の警察官」「米国市場への自由なアクセス」の戦略を継続した。ここで、日本に代わって最も恩恵を受けるようになったのが、「改革開放政策」に舵を切った中国だった。