米国の圧倒的な石油支配力が
ベネズエラ経済を崩壊させた
2019年に入って顕著になってきたのは、米国が「シェール革命」で得た石油・ガスを支配する力を、露骨に使い始めたことだ。この連載では、トランプ大統領が就任した時から、大統領がアメリカファーストを自信満々で推し進めることができる根拠として、「シェール革命」を指摘してきた(第170回・P.4)。
要は、シェール革命によって米国自身が世界一の産油・産ガス国になった。その結果、米国が「世界の警察官」を務める大きな理由であった、世界中から石油・ガスを確保する必要性がなくなってきたのだ。その結果、米国は産油国に気を遣わなくなり、エルサレムのイスラエル首都承認など、世界を混乱させるのが明らかな行動を、平気で取るようになった(第173回)。
だが、ここにきて米国は、シェール革命で産油国に無関心になっただけでなく、それをより積極的に新しい国際秩序構築に使い始めたように思う。それがはっきりしたのが、南米の主要な産油国であり、独裁政権のベネズエラに対する米国の動きだ。
現在、ベネズエラは169万%のインフレ、5年連続マイナス経済成長、3年間で総人口の1割(300万人)以上の国民が国を脱出、5日におよぶ全国停電が起こるなど、深刻な経済危機にある。また、今年1月以降は現職のニコラス・マドゥロ大統領とフアン・グアイド暫定大統領(国会議長)の2人の大統領が並び立つという異常な状態にある。
ベネズエラの経済危機の背景には、国際石油価格の長期的な下落がある。2013年末、1バレル100ドルに迫っていた原油価格は2014年の下半期から急落し始め、 2016年には24.25ドルまで下がった。その大きな要因がシェールオイルの本格的な流通の拡大だ。ベネズエラは、原油を中心とする石油が輸出の97%を占める、典型的な「産油国の経済構造」(第147回)だ。原油価格の下落は、経済危機に直結することになった。
さらに問題となったのは、米国への輸出の比率はピーク時には5割超を占め、2018年時点でも約36%を占めている、ベネズエラの「米国依存」の経済構造だった。ベネズエラに対する米国の制裁措置は、オバマ政権期の2015年から始まっていたが、それは政府・軍の高官に対する米国への渡航禁止や英国内の資産凍結にとどまっており、本格的な経済制裁が始まったのはトランプ政権からだ。
2017年8月の金融制裁では、ベネズエラ政府や国営企業が発行する債権の取引や金融取引、金や仮想通貨の取引も含む金融取引に米国人・法人が関与することを禁止した。これで、マドゥロ政権が対外債務の借換えや外貨を獲得するのが困難になった。
また、今年1月末の石油貿易に関する制裁措置は、ベネズエラから米国への石油輸入、および米国からベネズエラへの石油輸出を事実上禁止するものである。「米国依存」のベネズエラ経済は、外貨獲得源の半分近くを失った。
マドゥロ政権は、現在国が直面する経済破綻は米国が仕掛けた「経済戦争」によるものだと繰り返し訴えている。それ以前に、「石油輸出依存」「米国依存」の経済構造の問題を放置した自業自得のようにも思えなくもないが、いずれにせよトランプ政権がシェール革命で得た圧倒的な力を使ってベネズエラを滅多打ちにして倒したことは間違いない。