米国はイランも経済制裁だけで
滅多打ちにしてKOできる
米国はイランに対しても、シェール革命で得た圧倒的な石油支配力を見せつけている。2015年にオバマ政権下でイランと欧米6ヵ国が締結した核合意は、イランがとりあえず10年間は核開発を止めて、IAEA(国際原子力機関)の査察をきちんと受ける代わりに、経済制裁を解除するというものだ。イランは、その義務を守ってきているが、その気になれば、秘密裏の核開発は可能なものではある。
トランプ大統領は、この核合意について「一方的かつ最悪な内容で、決して合意すべきではなかった。平穏や平和をもたらさなかった。今後ももたらすことはない」と完全否定し、2018年5月に離脱を宣言した。大統領からすれば、「シェール革命」で得た米国の石油支配力があれば、イランを滅多打ちにしてKOできるのに「どうしてこんな中途半端な合意で満足するのだ」ということだろう。
トランプ大統領は、オバマ前政権の政策を嫌い、地球温暖化対策のパリ協定、TPPなどを次々とひっくり返そうとしてきた。だが、イランとの核合意については、オバマ前大統領に対する感情的な反発というより、合理的な計算に基づいている。
イランは、原油収入が政府歳入の約45%、輸出額の約80%を占める、典型的な石油依存型の経済構造である。その状況からの脱却を目指し産業の多角化を実現するために、原子力発電が必要というのが、イランの核開発疑惑に対する言い分だった。
だが、イランの言い分が嘘でなければだが、核合意で原子力発電の開発も止まる。産業多角化は進まなくなった。その上、シェール革命による石油価格の長期低落がイラン経済を苦しめてきた。さらに、トランプ大統領が、イラン産原油の輸入を禁止する経済制裁を再発動させ、イランから石油を輸入し続けてきた中国、インド、日本、韓国、トルコに認めてきた適用除外も打ち切ることを決定した。イラン経済は壊滅的な打撃を受けることになる。
イランのハッサン・ロウハニ大統領は、米国への対抗措置として、核合意について履行の一部を停止したと表明した。だが、トランプ大統領は痛くもかゆくもないし、むしろさらに経済制裁を強化する理由になる。一報でイランはあまり強硬になると、核合意をなんとか守ろうとしてきたフランス、ドイツ、ロシア、中国、イギリスの反発を招く懸念もある。
イランは、「ホルムズ海峡封鎖」を示唆してもいるが、それは「石油依存経済」のイランにとって、自殺行為でもある。要するに、米国に対抗する有効な手段はない。トランプ大統領は、イランへの経済制裁を強める一方で、国家安全保障担当を含む側近らに、イランとの戦争は求めていないと伝えたという。当然だろう。戦争などという「無駄な支出」をしなくても、イランを滅多打ちにしてKOできるからだ。