「あの、お宅の奥さんのことなんですが、何か怒っているんでしょうか。うちの前に生ごみを捨てたり、玄関の前に置いていた鉢植えを持っていったりすんですよ。私どもとしては、どうしてそんなことをされるのか、まるで心当たりがなくて、ご主人からちょっとお話ししていただけませんか」
人が変わってしまった妻に
戸惑いと恐怖を感じた
淳司さんは驚き、恐縮した。生ごみも鉢植え泥棒も、仮に何かトラブルがあったとしても、やってはいけないことだ。平身低頭して謝り、鉢植えはすぐに返すことを約束した。
とはいえ、千鶴子さんにも事情はあるのかもしれない。どう話を切り出そうか迷ったが思い切って聞いた。
「ね、最近、ご近所付き合いはどう」
「どうって、何」
「いや、テレビでよくさ、ご近所トラブルとかやってるじゃない。この辺はどうなのかなと思って」
「ああ、あれね。私もこの間、Aさんちの前に生ごみをまいてやったわ」
「え、どうして」
「うーん、私、あそこの奥さん嫌いなの。だってね、香水の匂いがきついのよ。道路のほうまで匂うから、具合悪くなっちゃうの。だから生ごみをまいてやったの。おあいこでしょ。こらしめてやったの」
「おあいこって、そんなことで生ごみまくなんて、お前どうかしてるよ。じゃあ、鉢植えは」
「ああ、あれね。きれいだったから、ちょっと借りただけ。もう花もなくなっちゃったからいらないわ。返していいわよ」
「えーーーー、なんで。借りただけって、それ、窃盗だろ」
「違うわよ。ちゃんと、『お借りしまーす』って声かけたわよ。でもあなた、どうしてそんなこと知ってるの。やだ、あの奥さん、告げ口したの。嫌らしい。なんであなた、自分の妻じゃなく、あの人の肩を持つのよ。ちょっと、どうなってるのよ」