これまで、量的金融緩和政策が物価動向に影響を与えなかったことを見てきた。他方において、日本の消費者物価が長期的・継続的に下落しているのは事実である。では、なぜ物価が下落するのであろうか?

金融緩和が物価に影響するメカニズム

 金融政策が物価に影響するメカニズム(トランスミッションメカニズム)として、多くの人が考えているのは、単純な貨幣数量説のメカニズムだ。

 しかし、経済学者は、この問題を「総需要」「総供給」のフレームワークで考えている。

 供給側の基本は、「フィリップスカーブ」である。これは、もともとは、「賃金上昇率と失業率の間に負の相関がある」(賃金上昇率が高まれば、失業率が低下する)という経験則だ。

 ここで、企業が「マークアップ式価格決定行動」を取ると考える。これは、「賃金の上昇に直面した企業は、利益率を一定に保つため、製品価格を同率だけ引き上げる」という行動だ。この場合には、物価と賃金が比例することになる。

 以上から「総供給曲線」が導かれる。これは、縦軸にインフレ率、横軸に産出量をとった平面で、右上がりの曲線である。つまり、「インフレ率が高まれば、産出量が拡大する」ことを示す曲線である。

 他方、金融緩和政策は、ベースマネーを増やし、その結果マネーサプライが増え、LM曲線を右に動かす。このため、総需要を増やす。名目貨幣供給量が一定のとき、インフレ率が高まると実質貨幣供給量が減るので、縦軸にインフレ率、横軸に産出量をとった図において、右下がりの曲線が得られる。これが「総需要曲線」だ。

 金融緩和政策は名目貨幣供給量を増やすので、総需要曲線を右にシフトさせる。したがって、総供給曲線との交点は、総供給曲線に沿って右上に上がる。つまり、インフレ率が高まり、産出量も増えることになる。