経団連の定時総会であいさつする首相の安倍晋三
5月30日午後、経団連の定時総会であいさつする首相の安倍晋三。安倍はあいさつ全体で「解散風」をあおった Photo:JIJI

 首相の衆院解散権は「伝家の宝刀」「首相の専権事項」と呼ばれる。首相以外は誰も手を触れることができない。首相という最高権力者の証しでもある。それだけに歴代首相は解散については常に慎重だった。ところが、首相の安倍晋三はこの解散に自ら言及した。

「風という言葉には今、永田町も大変敏感だ。一つだけ言えるのは風というのは気まぐれで、誰かがコントロールできるようなものではない」

 5月30日午後、経団連の定時総会でのあいさつで安倍はこう語ったのだ。ここで注目したのは、安倍が視線を演台に落としながら話していたことだ。つまり事前に用意された文書を読んでいた。確かにこのあいさつで安倍は「解散」という言葉は使っていない。しかし、「風」に加えて「永田町」「敏感」などの言葉をちりばめ、あいさつ全体で「解散風」をあおった。周到な準備の上で口にしたことをうかがわせた。

 なぜこのタイミングであえて解散風に触れたのか。安倍にとって解散権は政権の求心力を維持するための強力な武器であることは間違いない。絶えずその存在をちらつかせ、野党側はもとより与党の公明党、自民党内を牽制してきた。

 ところが、この発言をきっかけに解散風が吹き荒れるのかと思いきや、永田町は静けさを取り戻したようにさえ感じる。安倍発言から約1時間半後、官房長官の菅義偉は「風」について問われ、「無風ではないか」と答えている。

 その日の夜に開かれた自民党の全7派閥の事務総長会議では、こんな発言も出たという。

「菅官房長官がすぐに首相発言を打ち消し、バランスを取った」