「年金と参院選」──。首相の安倍晋三にとってこの組み合わせは「悪夢」そのものではないか。「年金とトラウマ」といってもいいかもしれない。安倍が陣頭指揮を執る参院選になると、なぜか年金をめぐる問題が浮上、そして結果は自民党の敗北が続いた。とりわけ安倍が政権の座から退くきっかけとなった2007年は今も安倍の心を支配しているようだ。5月30日に開催された経団連の定時総会でのあいさつで安倍はこう語っている。
「選挙は常に厳しく、本当に一寸先は闇だ。12年前の深い反省が(今の)政権運営の基盤になっている」
このあいさつで安倍は同時に自ら「解散風」を煽るような発言をしていたことが強い印象を残す。
「風という言葉には今、永田町も大変敏感だ。一つだけ言えるのは、風は気まぐれで、誰かがコントロールできるようなものではない」
解散権を握る首相自身が解散風を煽るのは極めて異例。現実に安倍発言を契機に、永田町では7月に任期満了を迎える参院選に衆院選を重ねる「衆参同日選挙」をめぐる臆測、思惑が渦巻いた。野党側に対する揺さぶりに加え、自民党内向けの引き締めを狙ったことは間違いない。ところが「追い風」にするつもりで吹かせたはずの解散風が予期せぬ「逆風」となって安倍の顔面をたたき付け、安倍の政権戦略は大きく狂い始めた。
その逆風を生んだのが金融庁の金融審議会が今月3日にまとめた報告書だったことは言うまでもない。公表直後から非難の嵐が吹き荒れた。
「年金だけでは老後の資金は賄えず、95歳まで生きるには夫婦で2000万円の蓄えが必要」