「大阪トラック」めぐり米国と中国が火花

 まず対立関係が明確に現れたのは、データ流通のルール作りに関する議論だ。28日午後のデジタル経済をテーマにした会合では、安倍首相を挟む形で米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が肩を並べ、激しく火花を散らした。

 トランプ大統領が中国を念頭に「デジタル貿易の自由な流れを妨げ、プライバシーや知的財産保護を侵害する政策には反対だ」と語ったのに対し、習主席は「各国の自主的な管理権も尊重すべきだ」と反論したのだ。

 この背景には、「デジタル保護主義」を進める中国への「包囲網」を築きたい米国などの思惑がある。中国では法律で、同国内で活動する外国企業が得た情報の国外への持ち出しを禁じているが、米国はかねて、そうした情報を共産党が奪っているなどと批判してきた。

 米国と同様の危機感は日本も共有している。そこで、米国と共に国際的なルール作りによる中国のデジタル保護主義の切り崩しを図ろうとした形だったが、2人の発言で早くも亀裂が表面化。7月からは「大阪トラック」をめぐる会合が始まる予定だが、この先の議論も難渋しそうな気配が漂う。

 2つ目として、米国と共に“対中包囲網”を築く意味でにわかに注目されていた議題に「質の高いインフラ投資」があった。

 中国の広域経済圏構想「一帯一路」をめぐり、インフラ建設時に中国が新興国に巨額の融資を行う際、相手国の対外債務を必要以上に膨らませる外交方法が「債務の罠」と呼ばれ、このところ世界的に問題視されてきた。

 そこで、融資額の大きさだけでなく、債務の持続性といった「質の高さ」の重要性を訴えることで、中国のやり口を牽制する狙いがあるとみられていたのだ。しかし議論は、「持続可能な世界」という大テーマの下、「労働」「ジェンダー・平等」「SDGs(持続可能な開発目標)」といった議題と並行して1時間程度で終わったこともあり、さほど深まった形跡は見られなかった。

 確かに討議を経て、G20首脳は「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を承認し、安倍首相はこれを非G20にも広げたい意向を示すには至った。ただ、議長国である日本は「名指しで中国を批判して刺激するわけにもいかなかった」(国内シンクタンクのエコノミスト)との見方がある。国家の最も重要な長期戦略である一帯一路の実現に向け、中国が態度を改めるほどの効力があるかは未知数なのが現状だ。