そして、安倍首相がサミット初日から「貿易制限的措置の応酬はどの国の利益ともならない」と訴えてきた中で迎えた29日の米中首脳会談では、追加関税第4弾の見送りに加え、貿易交渉再開にも合意した。

 とはいえ、トランプ大統領からは結局、中国側から何か具体的な譲歩を引き出したと取れるような説明はなされなかった。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、中国への追加関税をめぐるトランプ政権の姿勢に変化を与えたのは、サミット直前の6月25日まで開かれていたUSTR(米通商代表部)の公聴会で「関係業界から予想外に強い反対意見が出されたことにあったのではないか」とみる。

 サミットで米中貿易戦争への懸念が各国首脳から相次いだことや、議長国の日本などに配慮した可能性もあるかもしれないが、追加関税第4弾を思いとどまらせたのは、むしろ米国内の要因が大きかったのではないか、というわけだ。

根本的な対立構造は変わらず“休戦”も安心はできない

 トランプ大統領が現在、最も重要視しているのは20年の米大統領選での再選だ。対中強硬姿勢は支持層の受けはよいが、その手段が米国内に悪影響を及ぼすと歓迎されないジレンマがある。

 今回は後者のデメリットが表面化したから見送っただけで、選挙で有利になるとみれば、5月に2000億ドル相当の輸入品の追加関税を10%から25%に突如引き上げたように、再び態度を翻してもおかしくない。中国通信機器大手ファーウェイに対して米企業との取引を許可する方針を示したのも、国内の意見に配慮したものと考えられる。

 つまり、米中間の根本的な対立構造は何も変わっておらず、G20サミットが両者の姿勢を変化させたようにも見えない。このため、木内氏は「米中の溝は依然埋まっておらず、(制裁関税について)最終合意への道筋は全く見えていない」と厳しい見方を維持する。

 こうして見ると、サミットを通じて改めて浮き彫りとなったのは、米中が貿易問題のみならず、データ流通や一帯一路、テクノロジーの在り方まで長期的な“覇権”をめぐって幅広い分野で対立する姿ではないか。トランプ大統領以外にも政権内に対中強硬派は数多く、一時休戦に至ったとはいえ、貿易戦争という名の“時限爆弾”の再作動への警戒感は引き続き持っておくべきだろう。