2月といえば、日本では入試シーズンだ。中国は初夏にそのピークを迎えるが、受験戦争はこの世に生を受けた瞬間から始まっていると言っても過言ではない。
中国では3歳で入園する幼稚園で学習が始まる。母国語、算数、そして英語。日本では08年から文科省の指導要領の改訂により全国で英語活動が必修になったが、上海の場合、日本の小学6年生レベルに相当する英語は、すでに幼稚園で修了する。そして7歳で小学校に入学、12歳から4年間を「初中(chuzhong)学生」として、また、16歳から3年間を「高中(gaozhong)学生」として学ぶ。それ以外にも、上海などの都市部ではピアノ、バイオリン、バレエなど、寸暇を惜しんだお稽古事に通わせる家庭が多い。
自分のクラスから落ちこぼれを出しては、出世と給料に響くという立場の「班主任(学級担任)」と、一人っ子の愛娘の将来を案じる「家長(保護者)」の目指すものは、結局「点数主義」で一致する。いい大学に入りさえすれば、名門校さえ入れば、それこそ文句ナシの人生が確保できると、やはり多くの中国人は信じている。日本以上の学歴社会だ。
隣人や親戚そして社会の誰に訊いても、返ってくるのは「子どもの本分は学業」と言うゆるぎない答え。小学1年生から、朝は7時半前から登校し、みっちり7時間授業を受ける。夜は11時、12時まで宿題の山との格闘だ。「低学年だから」などという容赦はない。ただただ毎日山のように積み上がる宿題をこなす。放棄すれば怒り狂った老師(教員)の罵詈雑言をしこたま浴びる、小さな子どもでもそれは覚悟の上だ。「毎晩、子どもが泣きながら宿題をしている」ことに驚くのは私たち外国人ぐらいだろう。日本のように、ほんの一時集中すればいい受験戦争とも、だいぶ事情が異なる。
担任への「付け届け」に
親は神経をすり減らす
30代半ばも過ぎた徐静さんは上海のネイルサロンで働いている。いずこも同じ「子どもの教育のため」というのがその理由だ。1ヵ月働いて3000元(約4万円程度)にも満たない。だが、彼女の稼ぎは教育費の一部になるのではない。ほぼ全額が担任の先生への“付け届け”に化ける。
「何が頭が痛いかって、担任の先生へのプレゼントが一番厄介。学期の始まりと旧正月前は必ずよ。この前は数千元(何万円)もするかなり高価な時計を贈ったの。でも、突き返されちゃった。外国のブランドなのに。要はいくら有名ブランドでも相手が知らないブランドなら渡しても無駄ってことなのよ」
担任の先生のご機嫌伺いに靴底と神経を磨耗させる徐さん。子どもへの風当たりを少しでも和らげるためと思えばこその付け届けだ。が、ツボをハズせば逆効果。彼女のお嬢さんは初中1年生への進学が目前なだけに、落ち着かない日々を送っている。