経営者は銀行借入をするべきか、するべきではないのか

大久保 古山さんは本のなかで、ムダな借金をするべきではないとおっしゃっていますよね。第3章には「借金経営をすすめる書籍に騙されるな!」とあり、まさに私の本に対するご批判のような……。

古山 決して、借りることを批判しているわけじゃないんです。必要な資金は借りればいいけれど、必要もないのに借りないほうがいい、というスタンスです。

 確かにお金を借りやすい環境にはあるけれど、だからといって借りまくればいいとは思いません。ただ、いつでも借りられるように銀行を意識して財務を整えておくことは大事だと思っています。具体的には、営業利益をしっかりと出し、余計な資産を削って自己資本比率を厚くし、B/Sを身軽にしておくことです。

大久保 なるほど。私は借りられるときに借りておくことをすすめています。でもそれは、成長ステージにある会社を想定してのことです。私のお客さんは30代前後の経営者が中心で、彼らはこれから成長していこうとしていますから、資金がいるんです。たとえば飲食業などは、出店するのに多くのお金がかかります。

古山 いい物件を押さえるのは競争ですから、いざという時の現金が必要ですね。

大久保 そうです。それに加えて現在は調達天国のような状況ですから、1、2年は生きのびられるくらいのお金は借りておこうと指導しています。

「晴れの日に傘を貸し、雨が降ったら傘を奪う」のが銀行ですから、いつかは借してくれなくなる時がきます。借りるなら今のうちです。創業してから15年目くらいまでのステージにいる会社はそれでいいのかなと思います。

古山 確かにそうですね。私のメイン顧客である社歴の長い企業と、大久保さんの相手にする若い成長企業では、ステージが違うから資金調達の戦略も違うということになりますね。

大久保 現在の日本は、世界の常識から見ても金利が低すぎます。経営者はボーナスステージにいると思ったほうがいい。たとえば海外の同じ国に店を出すとしても、他国の企業は金利7%とかで借りて勝負しているのに、日本企業なら1%で調達できる。このアドバンテージを生かさない手はないですよ。

古山 なるほど。ただ資金調達の手段としては、銀行借入だけでなく、当座貸越という方法もありますよ。当座貸越は、最初に決めた金額を上限にして、当座預金残高がマイナスになっても、その上限までは短期借入金扱いになるという契約です。銀行と1億円の当座貸越契約を結んでいれば、当座残高が0円を割っても、1億円までならすぐに使えます。

 銀行取引のなかでもハードルは高いほうですが、契約しておくと便利です。飲食店が出店資金を必要とするときなど、突発的な資金需要に威力を発揮します。銀行は自分からは教えてくれませんけどね。

大久保 長期で借りてもらったほうが銀行としてはいいですからね。

「借りたら返すな!」「ムダな借金はするな!」中小企業の財務戦略、どっちが正しい?(前編)