強引なM&Aがもたらす「不幸」
「早く円満解決しましょう」
「助言行為のような、片側に立ってしっかりと寄り添うことができればいいと思いますし、それは僕らも理想だと思いますよ。そういう時間的な余裕がある会社さんであったら、それはそれで、いいんじゃないですか(いやみっぽく)」
「でも今回は、ゆっくり時間をかけるヒマは(われわれには)ないので、早く円満解決しましょう(効率よくちゃちゃっと会社を売ってしまいましょう)」
こんなふうに、売り手側である中小企業の経営者を焚きつけます。
このように強引な形で成立させたM&Aは、結果として買い手企業にも不利益を与えてしまう。
その点においても「不幸」なのです。
従業員も幸せになるM&Aを目指して
私の会社の場合は、売り手なら売り手、買い手なら買い手の、どちらかだけの代理人になります。
こうしたアドバイザリー業務は、大企業や海外では常識です。
私は売り手の側に立つときは、売りたい時期の1、2年前からその会社に関わり、じっくりコミュニケーションを取りながら売り手企業と信頼関係を醸成し、その会社の「強み」を探して「磨き上げ」を行い、より高く売れるようアドバイスをしています。
残念ながら、日本の中小企業のM&Aにおいては、このような「売り手の本質的な価値を見つけ出し、最良の相手(買い手)を丹念に探して交渉する」というプロセスはまだ一般的ではありません。
しかし、これからの時代、中小企業の事業の円滑な承継と発展に、不可欠だと考えます。
中小企業への思いの原点は、
寝ずに働き続けた自営業の母
長年、さまざまな会社のM&Aを実行してきましたが、私は売り手と買い手企業の双方が満足し、さらには従業員にとっても幸せな結果となるM&Aを目指しています。
このような中小企業へのひとかたならぬ思いの原点は、私の生い立ちからきています。
私は四国の香川県出身、自営業の父親と小さなバレエスタジオを運営している母親に育てられました。高校生のとき、父親が脳血栓で倒れてしまい、父親の事業は停止。母親が寝ずに働き続けることで、家族は支えられました。
自営業の私の両親とは規模は大きく異なるかもしれませんが、中小企業の経営者も余人に代えがたく、公私の区別なく事業に取り組んでおられる方が多いと思います。
そんな経営者の方々の大きな意思決定に確かなアドバイスを提供したい、その思いで事業を始めました。私が仕事をしていてうれしいと感じるのは、事業承継をお手伝いした後、経営者の方や、M&Aの後、買収された「嫁入り先」で働いている従業員の方々から「あのバトンタッチがあって、本当によかった」と言ってもらえたときです。
事業としては、うまくいくケースも、思っていたほどには伸びない場合もありますが、新しい会社で働くことになった人が、リストラにも遭わずに楽しく働けているというのが、いちばんいいことだと思っています。
それに、仕事というものは、やはり会社だけで成り立っているのではなくて、働く人の家族や友人といった個人的なつながりにも支えられていて、そのことで経営者はがんばれるわけです。