詐欺まがいの行為に
引っかからないために

 基本的には、売り手企業か買い手企業の一方としか契約しない助言会社を選んでおけば、間違いは起こりません。ただ、仲介会社はそれなりの強みもあるので、仲介会社を選ぶ場合は、買い手企業との契約内容を確認するようにしてください。

 守秘義務を盾にされたら、売り手企業は何も言えません。それでも、開示してくれない仲介会社を不誠実とみなし、契約しない自由があります。私は、買い手企業との契約を隠す仲介会社とは契約してはいけないと考えています。

 もし、契約内容を開示してくれなければ、仲介会社を選択する場合には少なくとも特定の1社と契約する「専任契約」ではなく、複数の仲介会社と契約することで、売買条件を客観的に知ることができる状態に近づけておくべきです。

 一方、助言会社は、売り手企業と契約すると売り手企業の利益しか考えません。
 売り手企業の利益には、さまざまな利益があります。コンペにして複数の買い手企業に条件を出させることで売却価格を少しでも高くします。
 売却価格以外にも、たとえば「技術を守ってほしい」といった経営者の望みを叶えるのも重要な利益です。

「安過ぎるからもう1年待ったほうがいい」
「この買い手企業は高い価格を出しているけれど、事業をぞんざいに扱い、従業員もリストラしそうだからやめたほうがいい」
「この買い手は安い価格しか出してきていないけれど、真剣にシナジーを考えている。事業の発展を考えれば、受けたほうがいい」

 価格だけではない売り手企業の利益をアドバイスし買い手と交渉できるのは、売り手企業側だけについた助言会社です。

 仲介会社は、どちらかを立てればどちらかが引っ込むことになるため、売り手企業の価値を最大化するアドバイスや、買い手企業の要望に沿ってできる限り安い価格での買収に持ち込む交渉は、基本的には実現困難なはずです。それができないことこそがまさに利益相反であり、仲介会社の根底にある問題点だと思います。

 また、売り手企業とのお付き合いは売るとき1回だけですが、買い手企業はたくさんの企業を買ってくれる「お得意さま」である可能性も高いはずです。となると、売り手と買い手、どちらを向いて商売をするか、容易に想像がつくはずです。

 日本の中小企業のM&A市場におけるこの構造問題は、M&Aがより身近になり、さまざまな業者のトラブルが顕在化するなかで、時間をかけて解消されていくかもしれません。ぜひ少なくともそうしたリスクがあることを認識したうえで業者を選び、M&Aのプロセスを進めていただきたいと思います。

※次回は、経営者がこれだけは避けたかった、ライバル会社に売り飛ばされてしまったケースをお伝えします(7月16日公開予定)。