売り手企業を手玉に取るからくり

 仲介会社が売り手企業の会社内容を大まかに調査し、売却想定価格として提示します。仮に営業利益が5000万円で純現預金が1億円ある会社をマルチプル(8倍とします)で求めた場合、個別の事情を考慮しないとすると、株式価値の市場価格の目安は5億円という数字になります。

 この数字を、買い手企業との間であらかじめ定める売却想定価格と設定するのです。この金額で売買が成立した場合、通常の仲介会社の報酬体系であれば、株式の譲渡対価である5億円の5%の2500万円を、売り手企業と買い手企業から受領し、合計5000万円の手数料を稼ぐことになります。

 しかし、悪徳業者は違います。売り手企業は仲介会社の算出した「本来の」売却適正価格を知らされないので、5億円という数字は知りません。悪徳業者はそれをいいことに巧みな話術で売り手企業を煙に巻き、こう言い放ちます。

「当社と取引のある買い手さんをくまなく回ったのですが、どうしても2億円以上で買ってくれる会社が出てこないんです。でも、この会社は良心的ですよ。ここで決断しなければ、市場価格はどんどん下がっていってしまいますよ」

 その会社しか好条件での買い手企業がいないように錯覚させ、その金額で合意しないと損をするような気になる心理状態に置き、追い詰めて契約を結ばせるのです。
 売り手企業の経営者は、M&Aを経験したことがない素人です。どのような金額が相場なのか判断基準を持っていません。
「手数料はいらない」と言ってくれた良心的な業者なので、その言葉に嘘はないと信じ込み、うっかり契約書にサインしてしまう。

 その結果、売り手企業は5億円で売れたはずの会社を、たった2億円で売却してしまうことになります。