世帯主が65歳以上の無職世帯の1カ月当たりの
平均実支出と平均実収入の差額
金融庁の金融審議会の報告書「高齢社会における資産形成・管理」が、引退に当たって2000万円の金融資産が必要と試算した。2014年の全国消費実態調査より、高齢無職世帯の平均月間収入と平均月間支出の差額である5万円を基に、これが金融資産の取り崩しによって賄われるとの想定で試算されたものだ。
これを18年の家計調査を用いて試算してみると、世帯主が65歳以上の無職世帯の平均実支出と平均実収入の差額は4万3108円にやや縮まったが、報告書と同様に試算すると、引退に当たって必要な金融資産は1700万円強となる。やはり大きな金額であることに変わりはない。
報告書の結果は相応であるように見えるが、麻生太郎金融担当大臣は平均値での議論には意味がないとして、受け取らない構えだ。
確かにこの部分の分析は短く述べられているにすぎない。人々の生活に関わるセンシティブな問題であるだけに、もう少し丁寧な分析があるべきだったという批判はあり得るだろう。
このような批判に応えるために、大臣に今後の対応として提案したいのは、いったん差し戻した報告書を、より丁寧な分析を加えた上で再提出することを金融審議会に求めることである。
全国消費実態調査も家計調査もその各世帯の回答を記録した個票が残っている。これらを注意深く分析していけば、各世帯で幾ら不足するのか、計算できる。この不足額の中央値、平均値、トップ10%、ボトム10%などを計算して、不足額が世帯によってどれだけ異なるのかというイメージとともに伝える報告書にしてみるのはどうだろうか。
こうした個票を使った分析を機動的に行うためには普段から個票を使い慣れている人々が必要だ。個票データを外部の研究者が簡単に利用できるような環境を整えると同時に、分析チームを政府部内に抱えておく必要があろう。
今回の騒動が数字を使った議論を忌避する方向に行くのではなく、議論のきっかけとなることに期待したい。
(東京大学公共政策大学院教授 川口大司)