「不潔なものに自分が汚染されるのではないか」「自分は家族や同僚を汚染させてしまうのではないか」――。こういった著しい恐怖を「不潔恐怖」と呼びます。「不潔恐怖」は頻度の高い強迫症状の1つです。1日に何十回も繰り返し、長時間手を洗っても、汚染の恐怖から抜け出せないこともあります。行動は家族を巻き込む場合もあり、水道料金など経済的にもばかになりません。過剰だという自覚があってもやめられない行動。このような“とらわれ”からどうのように解放されるのか、実際の症例をもとに、「森田療法流対処法」を解説します。(談/東京慈恵会医科大学附属第三病院院長・精神医学講座教授・森田療法センター長 中村 敬、構成/慈恵大学広報推進室 高橋 誠)
不安で手を洗い続けてしまう
30代主婦の悩み
今回は、大企業に勤務経験のある、いまは専業主婦の30代前半の女性の事例をご紹介します。元来、几帳面で敏感、完全主義、負けず嫌いの性格でした。10代の頃から他の人より手を洗う回数が多かったといいますが、生活を大きく損なうまでには至りませんでした。
20代後半、結婚を機に汚物や農薬によって食物や石鹸(せっけん)が汚染されるのではないかと気になり始め、自分のためにも、家族のためにも、常に完璧に手を洗わなければいけないと思い込み、洗浄強迫行為がひどくなってしまいました。エスカレートする一方の症状に耐えかね、かかりつけ医の紹介で中村敬先生にご相談しました。
相談の内容
「汚染が怖くて、家事ができない」
結婚後、料理など家事を始めるようになると、いつしか「自分の手が農薬に汚染されたのではないか」と不安でたまらなくなりました。手洗い、確認を繰り返し、汚染されていないか、家族にも繰り返し確かめてもらうほどにエスカレートしてしまいました。
そのため、ほとんど家事もできないような状態となり、家事は夫にほとんど任せるようになってしまいました。このままでは夫の負担も大きくなり、仕事にも影響が出てきてしまう、と自分だけでなく家族の問題として悩んでいました。