草は十分あるのに
牛が全くいないのはなぜか

 10月から続いていた雨期も終わりに近づき、周辺は多くの緑に囲まれている。昨年来、何回かのマタディ訪問時には気がつかなかったが、これまで筆者が訪問したアジアや中南米の風景とは異なることに気が付いた。牛や馬などの家畜がいないのである。この地域の家畜といえば、ほとんどがヤギである。

 草は十分あるのに牛が全くいないのはなぜか。コンゴ民主共和国全体の家畜では、牛、ヤギ、ヒツジが同じぐらいいるとのことだが、この周辺にはそれが当てはまらない。

 地元で話を聞くと、「ナガナ病」があるので牛は飼えないそうである。「ナガナ病」とは何か?アフリカ睡眠病をおこす「トリパノソーマ」の中で、牛に感染するものがある。これに感染すると、牛はだんだん元気がなくなり死んでしまう。ヒトと同じように牛や馬もこの病気に感染して、次第に衰弱し、死んでしまうのである。

トリパノソーマ原虫
トリパノソーマ原虫(大阪市・大城戸氏提供)

 この病気は、植民地時代に入ってきた西洋人にとっても脅威であった。ツェツェバエに噛まれ、トリパノソーマに感染すると噛まれたところが腫れ、少し熱が出たり、だるくなったりするが、大したことはない。まだ死ぬことはないので、本人たちは放っておく。2~3年たつと、熱やけだるさが継続し、だんだん元気がなくなる。

 この寄生虫は神経を侵し、感染者は「うとうと」とした状態が続いて、死んでしまう。最初に感染した時期に薬を飲めば治癒するのだが、それほどの症状でもないこと、すぐに薬も手に入らないことから放置してしまうのである。

 アフリカ睡眠病は、ガンビアトリパノソーマ症とローデシアトリパノソーマ症の2種類があるが、ガンビアトリパノソーマ症がヒトにとって問題である。このガンビアトリパノソーマ症により、最も影響を受けている国はコンゴ民主共和国で、過去10年間でヒト症例の70%以上がここで発見されている。

 WHOへの2017年の新規報告例は1446例であり、ほとんどは、僻地に住む貧しい人である。歴史的に中央アフリカ、西アフリカの広範囲で流行していたものが、コンゴ民主共和国に集約されつつある。