「捜査機関によるメディアへの情報提供には、捜査の都合や防犯など、数多くの意味合いが含まれることもあります。しかし、保護受給歴を警察が明らかにする必要性はないように思います。精神疾患の有無への言及も、精神鑑定など今後の方向性の説明に必要な範囲に限るべきではと思います」(吉広さん)

 しかし「もしも予防できるのであれば」という思いは、誰もが抱くことだろう。

「このような極めて稀な犯罪を防ぐために精神疾患の人を監視下に置くと、大量の“偽陽性者”を出してしまいます。精神疾患の判定自体、クリアなものではありません。いつの間にか、誰もが監視対象となり、多様性や寛容性を欠いた生きづらい社会になり、精神疾患者による問題行動は増加する可能性があります」(池原さん)

「閉じ込めておけばよかった」
で終わらせると何にもならない

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 予防の網に、誰もが絡め取られてしまう可能性はありそうだ。

「罪を犯す人には、社会的ステータスが高い人も、初犯の人も、精神疾患のない人もいます。長い人生で、精神的に、あるいは経済的に不安定な状態になることは、誰にでもあります。そのとき、極端な逸脱行動を取る前にシグナルを察知して、ケアできる体制を考えることが必要ではないでしょうか」(吉広さん)

 A氏は、数多くの近隣トラブルを抱えていたという。

「近隣は、『地域の厄介者』として『触らぬ神に祟りなし』という対応だったのではないでしょうか。もちろん、周囲の人々が何をしても、起きることは起きてしまう場合があります。でも、不安定だったAさんが安定するために、当時どういうフォローをなし得たのか。じっくり考えることが、今後に活きると思います。

 今回、『やっぱり危ないやつだった』『なぜ放置しておいたんだ。閉じ込めておけばよかった』と騒いで終わりにしてしまうと、毎回同じ反応を繰り返すだけでしょう」(吉広さん)

 悲惨さを言い表す言葉も思い浮かばない事件だ。だからこそ、これまでとは異なる考え方や方向性が求められていることは、確かであるように思われる。

【参考】

●認定NPO法人 地域精神保健福祉機構(コンボ):京都アニメーション放火事件の報道のあり方について コンボの見解

●NEWSポストセブン:京アニ事件「世の中捨てたものじゃない」と感じたつぶやき

(フリーランスライター みわよしこ)