破産しようが、経営者が横領しようが、
事業そのものは売れる

 リスクの高い案件が成立したのは、売り手の事業がしっかりしていたからです。
 売り手のシステム技術者の一人ひとりが、派遣先で行っている仕事にしっかりと向き合い、その技術が評価されていたのです。派遣される先は別々でも、この会社の技術者はそれぞれの派遣先で起こった問題解決のため、携帯PCで常に連携が密にできる環境を作り上げていたからです。
 本業の先行きの見通しが暗く、従業員も粉飾に加担するほど腐っていたら、買い手は見つからなかったでしょう。

 本業がしっかりと結果を出していて、顧客からの評判もよければ、経営陣だけを入れ替えれば売却に対する問題はありません。元の会社が破産しようが、経営者が横領しようが、事業そのものは売れるのです。

 本来はあってはならないことですが、経営者が粉飾や横領をやっているから売れないと判断するのは早計なのです。

 真摯な姿勢で事業に携わる従業員は関係ありません。経営者の失敗と従業員の努力を安易に重ねてはいけません

 そもそも、中小企業には「計算が甘い」「売上に計上するかどうかが曖昧」「経費の計上の仕方に統一性がない」「あるはずの帳簿がない」といったミスが、上場企業に比べて多いのは事実です。これを粉飾と言えば言えなくはありませんが、この程度のことはほとんどの中小企業では日常的に起こっています。

「違法な取引をしている」
「危ない暴力団との付き合いがある」

 こうした悪質なケースでは売却は難しくなりますが、単なる会計処理の甘さであれば、誤りを正せばいいのです。ある年の決算を黒字にするために経費を翌期に回したぐらいの話であれば、その時点にさかのぼってペナルティを支払ったうえで修正することは不可能ではありません。

 粉飾を奨励するわけでは決してありません。しかし、意図せざるミスがあったからといって、売却をあきらめないでください。中小企業は多かれ少なかれ「どんぶり勘定」なところがあります。躊躇せずに包み隠さず語ってください。無用なプライドや罪悪感のために隠し続けるから手遅れになるのであって、正直に告白すればたいていのことは解決できるはずです。