M&Aを検討するのは
65歳くらいから

 活況を呈すM&A市場は、今後しばらく縮小することはないでしょう。70歳、80歳の経営者がさらに増えていく状況は、この先、10年、15年と続いていきます。 事業承継ニーズの高まりを背景に、中小企業のM&A市場は拡大していますが、M&Aに関わる人たちの知識と経験不足、さらには事前準備の時間がとれていないという大きな問題も生じています。
  それゆえ、M&A自体は成立しても、その後に事業と従業員が悲しい結末を迎えてしまった……という案件も増えているのです。

 しかし、「事前準備の時間がない」という問題については、売り手企業の経営者が早めに手を打つことで、悲劇を未然に防ぐことができます。

「まだ元気だから」「生涯現役だ」とがんばり続けるのは素晴らしいことです。
 ただ、会社と事業と従業員の幸せな未来のために、「(M&Aを)検討する」のは早いに越したことはありません。人によって健康状態は異なるので一概には言えませんが、本当は65歳ぐらいから、健康で事業がうまくいっているうちに準備を始めるほうがうまく進みます。

 いちばん避けたいのは、経営者が高齢になってから、事業が右肩下がりとなっているなかで、慌ててM&Aに取り組むことです。足元を見られ、買い手企業側に有利な条件での交渉を仕掛けられてしまうからです。

 日本の中小企業経営者は、いい意味でも悪い意味でも綺麗です。自分よりも従業員のことを第一に考え、長年培った評判を貶めるような終わり方はしたくないと考える人が多い。

 5000万円、1億円、自分の手取りが少なくなったとしても、従業員に胸を張って話せるプロセスを踏みたいと考えます。必ずしも自分にとっての利益が最大化された条件ではなく、従業員や取引先からの評判を先に考える経営者が多い。これは日本の特徴であり、良い点だと思います。

 本連載でお話ししたような手続きを踏み、きちんとしたM&Aに取り組めば、買い手企業に素晴らしいバトンを渡せるはずです。