市場で渦巻いていた
景気後退懸念は沈静化
今年の3月から5月にかけて、日本経済はすでに景気後退に陥っているのではないかと、一部のエコノミストやマスコミの間で大騒ぎになった。それにもかかわらず、政府や日本銀行は「緩やかな景気拡大」という基本認識を変えることはなく、いつの間にか市場で渦巻いていた景気後退懸念も沈静化しつつある。あの喧騒はいったい何だったのか。
経済指標が弱くなったときに悲観的なことを言うのは簡単だ。慎重な物言いは時にもっともらしく聞こえ、受け入れやすくもある。新聞の論調もとかく悲観に流れやすい。しかし、景気後退かどうかは政策当局にとってきわめて重い意味を持ち、その判断は決して簡単なものではない。
どういった統計を見るのか、過去の判断との連続性や整合性は保たれているのか、恣意性が混在していないかなど、実際には一定の基準に基づき詳細かつ慎重に検討されている。その内容をきちんと調べれば調べるほど、「景気後退に認定される」という結論は出てこない。
景気は「谷」から「山」を拡張期、「山」から「谷」を後退期と呼び、「景気基準日付」によって「山」と「谷」の日付が正式に決められている。ちなみに、直近の「山」は2012年3月、「谷」は2012年11月であり、その翌月から始まった景気拡張期は2019年8月現在、6年9ヵ月(81ヵ月)目、戦後最長を更新中である(これまでの最長は2002年1月から2008年2月の73ヵ月)。
その「景気基準日付」はいったい誰がどのように決めているのか。内閣府のホームページによると、「景気基準日付は、一致DIの各採用系列から作られるヒストリカルDIに基づき、景気動向指数研究会での議論を踏まえて、経済社会総合研究所長が設定する」とある。
要するにこうだ。内閣府が作成している指標の1つに景気動向指数(一致指数)がある。景気循環と一致して変動する経済指標を9個選んで合成しているのだが、ヒストリカルDIとは、それらを合成する前に、それぞれの指標ごとに「山」と「谷」を設定し、「谷」から「山」の途上にある指標は常にプラス、「山」から「谷」の途上にある指標は常にマイナスとして合成する。仮にプラスの指標が5個なら、全体の9個に対するその比率をとって55.6%になる。そのヒストリカルDIが50%を下(上)回ると、その直前の月を景気の「山」(「谷」)に対応させるのである。