『役所窓口で1日200件を解決! 指導企業1000社のすごいコンサルタントが教えている クレーム対応 最強の話しかた』の著者でクレーム対応のプロ、山下由美さんがこれまでにない画期的なクレーム対応の話しかたを初公開。「怒鳴る」「キレる」「自分が正しいと言い張る」「理詰めで責める」「言い分が見当違い」「多人数で取り囲む」「シニアクレーマー」などあらゆるお客さまからのクレームを、たったひと言「そうなんです」と言わせるだけで解決します。

ファーストアクションで失敗しがちな理由

 クレーム対応では、じつはお客さまの怒りのきっかけが何であったかはあまり重要ではありません。スタッフのミスであれ、お客さま自身の誤解であれ、話がこじれるかどうかにはほぼ影響しません。

 影響するのはお客さまへの「ファーストアクション」です。最初に何をどうしたかによって、クレームの解決が難しくなるか、笑顔を引き出せるかが決まると言ってもいいでしょう。

 クレーム対応担当者の多くが、お客さまの激しい怒りにおののいたり、一刻も早く解放されたい気持ちから、ファーストアクションを「言い訳」や「正しい説明」からスタートしてしまいます。

 しかし、これこそがクレームをこじらせる最大の原因です。クレーマーを除くお客さまの大半は、何よりも自分の困り事に一刻も早く対処してほしいのであって、言い訳や正論を聞きたいわけではないからです。お客さまの「早く対処してほしい」という思いには、前提条件があることを忘れてはいけません。それは「お客さま(自分)の望む対処」であることです。

 特にクレームの原因がお客さま自身の間違いや勘違いであるときは要注意です。正しい説明からスタートしたくなりますが、その対応はお客さまの間違いを指摘するのと表裏一体です。逆にお客さまを追い込んで、話をこじらせることになります。

 では、どうすればいいのか。実際にあったケースを題材に、超共感法のアプローチ方法を見ていきましょう。

ケース:患者からのクレーム
 ある耳鼻咽喉科クリニックに患者から電話がかかってきました。
 「医者を出せ! もう何日も薬を飲んでるのに全然治らないじゃないか。あいつはヤブだ!!」
 怒鳴り声の主は、3日前に咳と喉の痛みを訴えて来院し、炎症を抑える薬と咳を抑える薬を処方した患者です。医師は診察中だったため、電話を取ったのは看護師でした。

「症状や薬の効き方は人それぞれで、3日で効くとは限りません。1週間分処方していますので、もう少し様子を見てください」
 そう伝えたのですが、患者は納得できなかったようです。その日、それから3度も電話をかけてきたのでした。
「お電話を代わりました。医師の〇〇です」
「このヤブ医者! 全然咳が止まらないじゃないか。どうするんだ⁉」

 医療機関もクレームを受ける機会の多い職場です。痛みや苦しみに耐えるお客さまの気持ちがクレームになることも少なくありません。それだけに、金品で解決するのが難しいクレームが中心であるのも特徴の一つです。あなたならどんな対応をするでしょうか?

(1)「1週間飲まないと効果が出ないこともありますので、お薬を続けて飲みながら様子を見てください」
(2)「咳が止まらないんですね。それはおつらいですね。お薬が合っていないのか、他に原因があるのか、お電話では判断しかねます。心配ですので、大きな病院で診察を受けられてみたらいかがでしょうか?」
(3)「咳が止まらないんですね。それはおつらいですね。処方したお薬で症状が改善せず、悪化しているようでしたら、大きな病院をご紹介することもできます」

 近年、訴訟が多くなったことで、医療の現場では、言質をとられないように「謝らない」ことをルールとしているところも多いようです。そのため、医師の対応としては、「(1)」が一般的でしょう。

 ただ「(1)」は、患者が「そうなんです」と言う機会がなく、医師への不信感を募らせ、より大きなクレームに発展する可能性があります。もし1週間経っても病状が改善しなければ、話がこじれるリスクがあります。

 そのため、大病院はともかく、個人病院やクリニックでは「(2)」「(3)」のように、「咳が止まらないんですね」と相手の訴えをいったん受け止めて、相手に「そうなんです」と言わせる対応がいいでしょう。それだけで、相手の攻撃性はかなり和らぎます。

「(2)」と「(3)」の違いがわかりにくいかもしれませんが、「(3)」のほうが「大きな病院を紹介する」という能動的な姿勢を示している分、ベターです。本当に患者が望んでいるのは「今すぐ病気を治す」ことだからです。それに応えることはできませんが、大きな病院を紹介することに反対はしないでしょう。

 特にこのケースでは、相手から「ヤブ医者」という信頼を失っている発言がありました。無理に再来院をうながしても余計にこじれたり、そもそも再来院しない可能性が高いでしょう。後々、悪い評判を立てられないようにすることを“解決のゴール”とすべきです。

 このように、ほかの病院に誘導するにしても、必ず「そうなんです」と言わせる場面を作り、相手の興奮状態を鎮めて、悪意に満ちた口コミによる風評被害を防ぐように注意しましょう。

 なお、会計や薬の待ち時間については、「おつらいなか、お手数をおかけして」とか、「長時間お待たせしてしまってお身体がつらかったですね」など、“謝る範囲”を限定してお詫びしましょう。「お手数をお掛けして」「長時間お待たせして」のように、何について謝っているかを明確にすることで、自分の責任の範囲を限定すると同時に、相手の状況をきちんと把握していることを伝えられます。

 その結果、「本当にそうだよ」といったリアクションを引き出しやすくなり、こじれることはなくなるでしょう。

ファーストアクションに失敗すると、あなたの人格が攻撃対象に

 このようにファーストアクションでは「そうなんです」(YES言葉)を言わせることに集中します。見方を変えれば、お客さまの口からからYES言葉が出てくるかどうかで、ファーストアクションがうまくいっているかどうか判断できます。

 万が一、ファーストアクションに失敗して、お客さまに「責任をなすりつけ、自己保身に走っている」と曲解されてしまうと、怒りの矛先が原因である「出来事」から「あなたの人格」に移ります。そうなると、あなたの声はお客さまの耳にますます届かなくなり、事態はさらに悪化していきます。

 クレーム対応の成否はファーストアクションが99%決めると言ってもいいでしょう。お客さまの怒りに直面したら、「言い訳」はもちろんのこと、「正しい説明」からスタートしないようにくれぐれも注意しましょう。ファーストアクションですべきことは、お客さまの誤解を解くことではなく、相手の怒りを理解し、YES言葉を引き出せる材料を探すことです。